追跡者を撒くことだけに必死になりすぎて、カメラマンさんも撒いてしまったようだ。気づけば俺は、アトラクションの裏側、倉庫のようなエリアに入り込んでしまっていた。もちろんロケエリア外、すぐに戻らないと。

 エリアから出ようとした時、通り過ぎようとしていた追跡者と目が合った。くっそ、まずはこいつをどうにかしないといけない。
 みんな同じ恰好をしているから区別なんてつかないと思っていたが、この追跡者は他に抜きんでて背が高く、一発で見分けがついた。
 黒いスーツの上からでも分かる筋肉の付き具合、頭は小さくバランスの良い体型……ちょっと待て。
 追跡者の首筋に二つ並ぶほくろ。俺は、そのほくろの持ち主に会ったことがある。

「ここは立ち入り禁止エリアです。今は見逃しますから、まずはエリアから出て下さい」
 このずけずけと遠慮のない物言い。あいつに間違いない。
「こんなところで会うとは思わなかったすよ、別所トレーナー」
 俺の呼び掛けに、追跡者はサングラスを取った。やっぱり別所だ。悔しいが、そのルックスには黒で統一されたスーツがよく映える。ぶっちゃけ俺のどストライク。

 昔から、筋肉と顔の良い男には目がなかった。男らしい顔つきで背が高くて逞しい肉体にずっと憧れていたって意味だけど。
 いくら部活で鍛えようと髪型を男らしくしようと、その憧れには届かなかった。今ここにいるルカちは、可愛いルックスに価値がある。
 憧れと、妬み。あと失礼なやつ。そんな別所と、どうしてこんな場所で顔を合わせなきゃならないんだ。

「一応、追跡者の正体を知られてはいけない決まりになっていますので」
「そうじゃなくて、どうして追跡者をしているのかって聞いてんの」
「追跡者の条件に当てはまるということで、オファーが来ました」
「条件?」

 悪人に操られる追跡者は、差はあるもののみんな大柄でとにかく足が速い。サングラスで隠れるとはいえ、番組的にはある程度のルックスも欲しいところだろう。
 確かに、別所ならビジュアル面では合格だ。喋ったらアウトだが、追跡者にセリフは必要ない。ジムトレーナーをやっているくらいだから当然体力はある。おまけに足も速いだなんて、ますます腹が立つわ。

「へぇ。足も速いなんて、筋肉だけじゃなかったんすね」