テレビ局に手作りの弁当を持って行った時は、メンバーに爆笑された。うるせぇ。努力もせずそのスタイルを手に入れたお前らに、俺の気持ちが分かってたまるか。
 だが、そんな俺の努力をあざ笑うかのように、比較的筋肉の付きやすい部位以外は相変わらず華奢で、自分で鏡を見ても守ってあげたいと思うくらい「ルカち」だった。

「神崎様、一緒に頑張りましょう。元々運動をされていたこともあって、体力の数値は確実に上がっていますし」
 マッチョ店長のポジティブな言葉に、俺は頷いた。
 そうだ。たとえ見た目は変わらなくても、体力は確実にアップしている。暴走中のロケでは、華麗に追跡者を翻弄してやるんだ。屈強な追跡者にルカちが確保されてしまう可哀そ可愛いルートで、お茶の間の話題をかっさらってやるんだぜ。

 ふと俺の視界に、トレーニングエリアの隅で常連客のコーチングをしている別所の姿が入った。別に見ようと思って見たわけじゃない。そこだけ空気が地味過ぎて、何だか目に入ってしまったのだ。
 別所は相変わらず愛想笑いのひとつもなく、真面目な顔でデータを見ながらマシンの調整をしている。常連客も慣れっこなのか気にしていないのか、黙々とトレーニングを続けていた。

 体験入会の日以来、俺は別所と顔を合わせることはなく、あの出来事も今の今まですっかり忘れていた。人のやる気を削ぐような言い方にはカチンときが、冷静になってみれば、芸能界ではよくあることだ。

 そんなことを思っていたら、別所と目が合った。俺は慌てて目を逸らす。あの時、今の状況をあいつに言い当てられた気がして、何だか悔しいような気まずいような気持ちが湧いた。

 トレーニングメニューを終えた俺は、ロッカールームへと移動した。ムキムキにはなれなくても、しっかりトレーニングをした後にシャワーを浴びれば、達成感が身体全体に行き渡り、仕事のモチベーションも上がる気がする。
 レンタルタオルを腰に巻いてシャワーブースから出ると、俺の他には誰もいなかった。
 タオル一枚のままベンチに座って汗を落ち着かせている間、プロテインドリンクを飲む。マッチョ店長に勧められて購入した、ジムオリジナルのドリンクだ。効果のほどは分からないが、飲まないよりは飲んだ方がいいかと続けている。

「ふぅ」