「いえ、食事内容や運動履歴もそうなんですが、元々体質的に男性ホルモンの分泌が少なめだったりだとか男性ホルモンの働きを阻害する女性ホルモンの分泌量が多いなど体内環境の影響を受けやすいというのも可能性として……」
「もういいです!」

 我慢の限界だ。俺だって分かってる。長いこと努力したって成果が出ないんだ、きっとムキムキ人生は手に入らないんだろう。分かってるよ、そんなことくらい。
 だけど、そんなにまくし立ててこなくなっていいじゃん。やる気を出させてくれるのもトレーナーの仕事じゃないの?

「神崎様、別所トレーナーに代わりまして、私が担当させていただきます。失礼がありましたらお詫びします」
 俺の語気の荒さを察したのか、受付からマッチョ店長が飛んできた。
「ああ、いえ。こちらこそ大きな声を出してしまってすみません。設備やシステムはとても良かったです」
「ありがとうございます。神崎様の理想のボディが手に入るよう、精一杯フォローさせていただきます。どうぞ、こちらのお部屋へ」
 マッチョ店長は、別所にシッシッと手で追い払うような仕草をすると、俺の背中に手を添えて俺を別室へ誘導した。ひよっこではあるが一芸能人である俺に配慮してくれたらしい。
 俺だって、別所の言い方が気に食わないだけであって、芸能人風を吹かせるつもりは全くない。店長が担当してくれるというなら、しっかりトレーニングをして、暴走中のロケに間に合うよう仕上げたい。

「ですが店長、神崎様の目指すボディは正直言って無理かと……」
「別所はもういいから、あっち担当して」

 別所とやらはまだ何か言い足りないようだったが、知ったこっちゃない。決めた。二ヶ月後のロケまでに身体を仕上げて、別所を見返してやるんだぜ。

 プロのアドバイスを受けること二ヶ月。暴走中のロケを数日後に控えて、未だムキムキのムがせいぜいといったところだ。
 見た目に違いが出るのは早くて半年後ですよ、とマッチョ店長は言うが、野球部の頃から自己流とはいえトレーニングを積んできた俺からすれば、やっぱり筋肉に裏切られた気持ちだ。

 レッスンや仕事の合間を見てはジムでトレーニングをし、食事メニューを見直され、苦手な自炊もするようになった。