……待てよ。社長の顔を立てて最後は捕まるとしても、途中までは本気出してもいいわけだよな。
 ウルトラスターランドで活躍すれば、ご当地アイドルの名もあがるし、何より可愛いだけじゃない俺の意外な一面てことで、仕事の幅が広がるかもしれないじゃないか。
 要は可愛いキャラクターからブレないようにすればいいんだろ?
 任せろ。イガグリ頭の頃でさえ、このビジュアルは隠し切れなかった俺だ。健気な可愛らしさは損なわず、ルカち凄いと言わせてみせるぜ。
 俺の秘めた闘志、暴走中にぶつけてやる。待ってろよ、追跡者。
 マネージャーが首を傾げるほど上機嫌になった俺は、ベンチプレスをもう五セット追加することにした。

「なるほど、神崎様は筋肉が付きづらいタイプのようですね」
「は?」

 収録で一緒になった芸能界の先輩に勧められて体験入会したスポーツジムでのこと。開始早々、担当トレーナーにはっきりとそう言われて俺は苛立った。
 確かに自分で筋トレしていても効果がないのは分かっている。だからこうしてプロを頼ってるんじゃないか。それをはなっから否定してくるコイツは何様だ。
 一通り測定をしたデータに目を通しているトレーナーを、俺は渾身の力で睨みつけてやった。睨みつけるというか、睨み上げる形になるのがまた腹立たしい。まるでメンズ雑誌のモデルのようにルックスもスタイルも均整の取れたそいつは、だがまるで気にする素振りを見せずに、真面目な表情でデータを見ながら何やらぶつぶつ呟いている。
 胸のネームプレートには「別所」とあった。おい別所、俺のどこを見て言ってんだよ。

「ここ三日間の食事メニュー、自己トレーニングの内容、身長体重BMI。測定させていただいた数値からそう判断しました。あと」
 別所はそう言い放った後、出し抜けに俺の二の腕に触れてきた。
「うん、やっぱりな」
 しばらくムニムニと俺の身体のいろんなところを触ると、うんうん、と頷いてデータ表に何やら書き込み出す。
「やっぱりって、何がやっぱりなんですか」
 分からないまま身体を触られた俺は、さらに苛立った。何なんだこいつ。