深夜ドラマやアニメのイベントに呼ばれるようになって、全国的にも顔が売れるようになってきたものの、手持ちの楽曲は数えるほどしかないし、ダンスの振り付けも自分たちで行っている。時折こうして入ってくる地元の仕事も率先してこなしてこその、ご当地アイドルだ。だけど、ウルトラスターランドってたしか……。

「あそこ、別のプロダクションの人がCM契約してますよね。だとすると何のロケですか。情報番組?」
 俺が首を捻ると、マネージャーが違う違うと企画書を差し出してきた。
 表紙には《暴走中》の文字。 東京のキー局、RKテレビで人気のリアルゲームバラエティ番組だ。
「え、これ、俺が出れるんですか?」
「そうだよ。社長がプロデューサーに頼み込んで入れてもらったんだ。ご当地ロケならぜひうちに、って。番組改変に合わせて、別グループのアイドルが入る筈だったんだけど、ちょうど週刊誌ネタでバタバタしてるしさ。そういう時こそチャンスだって」
「あー、なる……」
「それでだ、ルカ」
 マネージャーが真剣な表情になる。これは、俺へのけん制が始まるサインだ。

「君の運動神経は封印しろと社長からのお達しだ」
「え?」
「ルカの運動神経なら、追跡者を撒き切ってしまうかもしれない。惜しいところで追跡者に捕まる程度には抑えて欲しいんだ」
「どうして。全力を出して、チームを勝利に導いた方が絵になるでしょ」
「ルカのキャラにそれは求めてないんだよ、ファンは。屈強な追跡者に捕まってしまう可哀そ可愛いルカちに、ファンの母性がくすぐられるんだから」
「ええ……」
「途中までは、しっかり走っていいから」
「……分かりました」

 ごねても仕方ない。可愛い系で売れている俺に求められているのは、足の速さでも力強さでもない。健気に頑張ったけど捕まってしまう、うるうる眼差しのルカちだ。