どうなんだよ、別所。あんたなら捕まえられるんだろ? 俺の心も、捕まえてみろよ。
 挑発するように、俺は別所の身体に自分の身体を密着させた。
「……ルカ」

 遠慮がちに俺の名前を呼ぶ声がして、そろそろと俺の腰に別所の両手が回される。やるじゃん別所。新しい可能性の始まりか?

 ブーッブーッ
 スマホの通知音が空気を震わせ、俺たちは慌てて身体を離した。誰も見ていないはずだが、敵同士である追跡者と男子アイドルが暴走中に密会なんてことがバレたら、さすがにまずいしな。

「じゃあ、俺が階段を降りたら、リスタートな」
「分かりました」
「ロケが終わったらデートするから、場所決めといて」
「分かりまし……デー……ト?」
「約束したからな」

 きっと、デートなんて言われたのも初めてなんだろうな。再びゆでだこになって呆然としている別所をそこに残して、俺は軽快に階段を降りた。

 別所という追跡者を一人潰したおかげか、俺ともう一人が最後まで逃げ切った。前回と前々回の成功者がいなかったのもあって、社長はまた大喜びだ。
「ルカくん、ナイスファイトだったわよ。プロデューサーもベタ褒め。ほらね、顔だけじゃないって最初からそう思ってたのよ」
 マネージャーの運転する車で事務所に戻る帰り道、社長が誇らしげに言うのを、俺は上の空で聞いていた。

 別所とのデート。あいつちゃんと本気にしてくれているだろうか。念押しでメッセージを入れておこうか、そう思った矢先。 

『別所大二朗』
 スマホがメッセージの受信を知らせた。え、別所から? 
 びっくりした。恋愛は全くダメっぽい別所が自分から動くと正直期待していなかった。慌ててメッセージを確認した俺は、コンマ数秒後にガックリすることになる。

『今日はお疲れさまでした。そして賞金獲得おめでとうございます。お祝いと言ってはなんですが、新しいトレーニング器具を進呈させていただきたいと思います。使用方法をお教えしますので、ご都合のよろしい時間に、ジムの方へお越し下さい』

──こんなん、デートじゃねえぞ別所おお!!

「……は、っ、……も、無理」
 思わず声が出てしまう。さすがにロケの後の追いトレはキツいって。

「あと三回、ちゃんと息吐いて。はい、二回。頑張れ」
 くそう。やっぱり別所、気に食わねえっ!