なのに、ふんわりゆるふわパーマやピンクの髪色、ほんのりメイクのマジックで愛され男子に変身した俺は、可愛いもの好きな女子に「ルカち」と呼ばれ、グループの中でも高い人気をキープしている。
 俺の心はさらに複雑だ。言われたくない筈の可愛さが、俺の人気を支えているんだから。

「ルカくん、バレンタインチョコたくさん届いてるわよ。検品済だから、あとでお礼のメッセージとチョコ持った画像、SNSに上げといてね」
「ええ、めんど……」
「それ以上は言わせないわよ」
 メイクルームを出て事務所に顔を出した途端、俺を見出してくれた社長からマシンガンのように指示が飛んできた。
「いい? まだメジャーデビューしていないあなたたちにとって、ファンサがすべてと言っても過言ではないのよ」
「あーはいはい」
「はい、は一回」
「はい」
 オフではついぞんざいになってしまう俺の口調も、社長にはまったく効かない。メンバーが交代で更新する公式SNSは、フォロワー数を確実に伸ばしていた。社長の戦略は確かに正しい。
 俺は応接テーブルに積まれたチョコレートをいくつか手に取った。各メンバー宛に仕分けされたチョコレートは、俺のだけピンクをモチーフにしたキャラクターの可愛らしいパッケージばっかりだ。

 自分の中のギャップを埋められるようにならないと、プロとは言えない。俺は貰ったチョコレートの山に顔を近づけると、評判の潤み目をひと際大きくして、マネージャーが構えるスマホの画像に収まった。

「ルカ。再来月、ウルトラスターランドのロケ入ったよ。単独で」
 マネージャーにそう言われて、オレは筋トレ用のトレーニングベンチから上体を起こした。
 事務所の隅っこに置かせてもらってるこの筋トレベンチで、小さな葛藤を抱える自分を納得させている。まぁ野球部をしていた頃から、筋トレしたところでムキムキになる兆しは見えないんだが。

「ウルトラスターランド? なんか新しいアトラクションでも出来ましたっけ。学生の頃はよく行ったけど、最近は分かんないや」