跳ぶのも着地するのも、素早く正確に。ミッションを成功させるごとに、身体のキレはよくなっていく。これもトレーニングのおかげだ。疲れの出ない動きは、自己流でトレーニングしていた時とは比べ物にならない。
 マッチョ店長のトレーニングだったら、もしかしたらもっと身体が重くなっていたかもしれないと思うと、別所に歯向かっていた自分が恥ずかしくなる。
 別所は、俺の筋肉の特徴をしっかり見極めて、新しい可能性を引き出してくれたんだ。

「その通りです」
「わ、べ、別所?」
「しいっ」
 アトラクションへ通じる階段で息を整えていたところを、ちょうど下からも上からも死角になっている踊り場の陰から声を掛けられて、俺はびっくりした。
「今カメラは女性出演者に集中していますので、これはオフレコですが」
「オ、オフレコって、わっ」

 腕を掴まれ、踊り場の陰に引っ張り込まれた。
「油断は禁物ですよ。はい、確保です」

 確保、と両肩に置かれた手のひらは決して強引じゃなかったのに、よける余裕すらなくて、俺はその手のひらの大きさをドキドキしながら感じていた。

「か、確保って。今オフレコって言ったの自分じゃん」
「そうです。なのでこれは記録には残りませんが、もしカメラが回っていたら、弁解の余地はありませんでしたよ」
「うっ……」
 相変わらず気に食わない。どうして俺、こんなやつ好きになっちゃったんだろ。

 愛想笑いのひとつもできないポーカーフェイス(サングラス掛けてても分かる)の別所を睨み上げると、俺は別所の両手を払いのけ、ぐいとその頭を引き寄せた。

「……油断は禁物、ですよね。別所トレーナー」
 唇をゆっくり離すと、別所にニヤリと笑いかけてやった。
 別所のサングラスが鼻までずれている。いつもの真面目な別所からは想像もできない間抜けな表情に、俺はしてやったりとニヤニヤしてしまう。

「キ……、キ……」
「キ?」

 あれ? 別所の様子がおかしい。
 サングラスをずり下げたまま、別所はゆでだこのように真っ赤な顔をして、キ、キ、とうわずったように繰り返し始めた。
 男にキスされるなんて思わなかったんだとしても、別所の慌てぶりは普通じゃなさすぎて、「待って、ごめんごめん」と思わず俺まで焦ってしまう。

「そんなに嫌だった?」