もしかして、また別所も……。

「はい。オファーが来ました」
「やっぱり」
 ジムでのトレーニングを終えてデータを集計していた別所に、暴走中のことを聞いてみた。
「出るんすか?」
「今回は動員数が多いので、必ず出てくれと言われました」
「じゃあ、また対決するかもしれませんねー」
「次は見逃しませんよ」
「望むところっす。手抜きはなしで」
「勿論。トレーニングの成果をチェックさせていただきます」
「むかつくなー」
 だけど、俺は心の中で想像してはにやけてしまう。長いストライドで追いかけてほしい。追いかけて、捕まえてほしい。捕まえて、そして……ちょちょちょ俺!! 何考えてんだ!! 
 俺がこんな妄想を膨らませているなんて思ってもいないだろう別所は、相変わらず真面目な様子で、「ここはもう少し回数を減らして、これを増やした方がいいか……」などと呟いている。
 その整った横顔を眺めながら、別所には彼女とかいるのかな、俺が別所のことを好きだなんて知られたら引かれるかな、なんてぼんやりと考えていた。

 俺だけが特別扱いじゃないってことは分かってる。トレーナーとして、どの客にもこうやって真剣に向き合ってるんだと思う。
 だけど、俺と別所は「客とトレーナー」だけの関係じゃない。「アイドルと追跡者」、これは特別だろ。
 絶対追跡者を仕留めてみせるんだぜ。見てろよ、別所。

 俺にロックオンされたとも知らずに、別所はああでもないこうでもない、とトレーニングメニューを暴走中仕様に改良してくれた。
「持久力のための筋肉はキープしつつ、もっと身軽に障害物なんかも飛び越えられるといいですね」
 なんて、ジムでは扱っていないトレーニングをさせてくれるスタジオに連れて行ってもらった時は、すっかりデート気分だった。俺だけね。
 スタッフポロシャツでも、追跡者の黒スーツでもない私服の別所は、ぶっちゃけダサかった。だけど、そんなところもギャップ萌えとか思っちゃってる俺は、だいぶイカれてるな。うん。

 そしてロケ当日。