……ん? 嬉しい? 俺、別所に褒められたくて頑張ってる? 見た目理想、態度最悪の別所に俺……もしかして。

 昔から、メンズ雑誌を見るのが大好きだった。スポーツ、アウトドア、ファッション……。顔も身体も完璧な男を見て、俺もこんな風になりたいって。憧れだった。いつかこんなルックスになりたいって。絶対なれるって。
 だけど実際に雑誌に載る方の側になってみて、その憧れは手に入らないと知った。事務所やファンから求められる俺は、それじゃないんだと。
 アイドルなんて、誰もがなれるわけじゃない。俺はこのルックスのおかげでここまで来れたんだから、いつまでも未練を残してちゃいけない。
 分かってはいたけど、なかなか飲み込めなくて周りの人に当たってしまっていた。

 そんな俺に、「自分の可能性を伸ばせ」と真っすぐ向き合ってくれたのが別所だった。
 お世辞も言ってくれない、社交辞令もない。めったに褒めてもくれない。俺がアイドルであっても容赦しない。
 だけど、別所の言葉に嘘はなかった。理想の肉体にはなれなかったが、その代わり瞬発力、身体のキレ、軽さは、今までとは比べ物にならないほどレベルが上がった。別所の言ってた通り、俺にしか手に入れることのできないものだ。

 次はいつジムへ行けるか考えている時。別所にメールを送る前。返信を待っている間。そんな風に自分と向き合っているうちに、俺は気づいてしまったんだ。この気持ちは理想の肉体へのあこがれじゃない。別所自身が好きなんだって。

 ああ、だけど。だけどだ。別所は俺のことをジムの客だとしか思っていないんだった。
「くっそ、全然ダメじゃんか!」
「どうしたのルカ」
「何でもないっ」
「そこ、うるさいよ」
 テレビ番組の収録でメンバーと出番を待っている時、マネージャーが忙しない様子で楽屋に入ってきた。
「ルカ、特番決まった! 暴走中のプロデューサーが、また出てほしいって」
「おお、凄いじゃんルカ!」
「最近お前キレキレだから、絶対目立つぞ」
「で、プロデューサーから仕事もらってきて」
「次は俺が出る!」

 メンバーに雑に祝われながら、マネージャーから番組の出演依頼書を見せてもらうと、そこには前回と同じウルトラスターランドでのロケであることが書かれていた。追跡者の数もミッションの難易度も、前回よりレベルアップしているという。