プロフィールを読んでいくと、某大学の出身だということが分かった。スポーツ、特に陸上競技に強い大学だ。スポーツエリートか。トレーナーに転向するまでずっと陸上の選手だったんなら、足が速いのも当然だ。

 別所大二朗の名前を検索窓に打ち込んでみる。ようやく名前の売れてきた俺よりもヒットした件数が多くて、また腹が立つ。
 大体が大学時代の話題のようだ。別所は短距離走の選手としてかなり有名だったらしい。

『短距離走期待の星、別所大二朗。無念のリタイヤ』
『復帰困難。今季大会は欠場』
『別所、引退を決意』

 不穏なタイトルが目を引いた。別所に何かあったんだ。きっとそれがエリア外で見た、あの表情の原因なんだろう。
 別所ほどじゃないけど、俺だって今までいろいろあった。野球は挫折したし、オーディションにだって何度も落ちている。だけど別所のそれは、俺のとはレベルが違う。
 記事をいくつか読んでみた。競技場に向かう途中、小さな子供を助けようとして交通事故に巻き込まれたらしい。回復はしたものの、いつしか別所を期待する声は消えていき、輝かしい大会の記録とは裏腹に、ひっそりと引退を決めたようだった。

 あの真面目で不愛想でお世辞の言えない別所に、こんな過去があったなんて。
 俺は、メダルとともに大きな笑顔を見せるかつての別所の画像を、いつしか食い入るように見つめていた。

 ロケが終わって一ヶ月。予想以上の撮れ高をプロデューサーに褒められて、社長は大喜びだ。
 他のメンバーにも新しい仕事が入るようになり、グループの認知度が徐々に上がっているのは間違いなかった。新曲の準備も重なって、何だか前より忙しい。
 ファン以外の人からも声を掛けられることが多くなった。暴走中のお兄ちゃんかっこよかった、なんて小さい子から言われた時は嬉しかったな。まあだいぶ限定的なファンではあるけど、一度は言われてみたいフレーズだったから。
 
 ルカちだと囁かれることが増えた街中を、少しうつむきがちに歩く。今日の仕事が思いのほか早く終わったので、久しぶりにジムへ行くつもりだ。
 撮影やレコーディングばかりで身体を動かせていなかったから、せっかくムキムキのム、までついた筋肉すら落ちてしまっている。マッチョ店長は、また新しいプロテインとか、どこでも使える筋トレグッズなんかを勧めてくるんだろうな。