鏡の向こうから、長めのまつ毛に縁どられた大粒アーモンドのような瞳が俺を見つめている。
 切れ込みの深い目尻は、潤んだ眼差しを演出するのに最高のチャームポイントよ、とメイクさんから大絶賛だ。ほんのり出来る陰影が意味ありげで、儚く愛らしい俺のイメージにぴったりなんだと。
 髪をミルクティーピンクに染めたのは、俺の所属するグループでのメンバーカラーがピンクだからだ。
 メンバーカラーなんて、何とかジャーじゃあるまいし。なんて初めはいやいや事務所の指示に従ってたけど、最近適度に色が落ちてきたのが良い感じで、これはこれでありかもとは思っている。

 俺の名前は神崎瑠夏。インディーズレーベルから音楽デビューしたばかり、六人組アイドルユニットの一人だ。
 グループの結成は、関西と関東の中間に位置するいわゆる地方都市で、地方活性化を掲げて大々的に行われたアイドルオーディションがきっかけだった。
 少し年下の女子で構成されたアイドルグループに遅れること一年。「妹に愛され過ぎて困って」そうな、ちょい年上男子をコンセプトに選ばれたのが俺たちだ。
 要は様々な「モテ」ニーズに応える要素を取り揃えましたってことなんだが、俺は自分の立ち位置が未だに気に入らない。
 頼れる系、ちょい悪系、インテリ系、やんちゃ系から順に、顔や身長、体つきで取られてしまった。残ったのは、お笑い系と可愛い系。
 オーディション審査で、五分ほどのコントをした時のことだ。渡された台本通りにやったつもりなのに場の空気を凍らせた俺には、笑いのセンスがないことを思い知らされた。
 絶対に落ちたと思って帰ろうとした時、野球部の名残りで地肌が透けるくらい短髪にしていた俺のところに、審査員のひとりがつかつかと近寄って来た。
「あなた。髪を伸ばして、もう一度事務所に来てちょうだい」

 それが、可愛い系枠で合格したきっかけ。ちなみに、その審査員ていうのが事務所の社長。そりゃあメンバーに入れたのは嬉しかったし、社長直々に声を掛けて頂くなんてありがたいとは思うけど……。可愛いと言われるのは正直複雑だった。
 メンバー内で一番背の低い俺の立ち位置は、いつも二列目の左端。背の高い前列組には被らないが、そう目立つわけでもないポジションだ。