「お菓子作りは始めたばかりで自信ないんだけど。食べてくれると嬉しい」

「これ……茅野がつくったやつ?」

バニラビーンズの香りがふわっと届いて、心の中の些細な引っ掛かりはどこかに吹き飛んでしまった。

山型に膨らんでいる黄金色のスフレパンケーキは、夕里がスマートフォンで写真を撮っているわずかな間でも、外の空気に触れるとしゅるしゅる萎んでいく。

早く食べて欲しそうにこちらを見つめていたので、後で茅野につくってもらったって写真つきで自慢しよう、とにやにやしながら、さくさくの外側にスプーンを突き刺した。

見た目通り空気をたっぷりと含んだ、軽いパフのような感触が指先に伝わる。

直線的な甘味ではなくて、奥深いこくのあるまろやかな舌触りにうっとりとする。

「ふわふわでとろとろで甘くて美味し……。かやのやに並んでたら毎日貢ぎそう、俺」

イケメン男子がつくりました、なんて生産者の顔を出せば、それはもう飛ぶように売れるのではないかと思う。

……少し面白くないような気もするが。

「よかった。夕里、甘いものには手厳しそうだから、今日までずっと緊張してた」

「……緊張してるわりには、余裕そうにしてるじゃん」

「夕里の前では格好つけたいんだよ」

誰に対してもそんな感じだろ、と日頃からのモテっぷりに心の中で悪態をついた。

茅野に声をかけたいと思っても、女子の厚い壁に阻まれて自分のクラスに逃げ帰ったことなんてことはしばしばある。

そんな日常のほろ苦い嫉妬も、スフレの中に隠してあったカスタードクリームで漏れることなく包まれた。

手作りスイーツの甘さに免じて許してやらなくもない。

「1番最初に夕里に食べさせてあげたくて、誰にも味見させてなかったから」

特大級の甘い台詞に胃もたれを起こしそうになる。

出された手料理を完食すると、茅野は目元を赤くして顔を綻ばせた。

自分のつくった料理に美味しいと言ってもらえるのは、自身でいうところのいいねを押してもらうのと同じようなものなのだろうか。

同い年と実感する普段より幼げな笑顔に、夕里はこっそりとハートマークのいいねを送った。




fin.