陰口にしか聞こえない件について、夕里は説明を求めるけれど、茅野は「そういうところもだよ」とにやけた顔で返答した。
少し足を伸ばして大きい商業施設に来た夕里達は、まず最初にアイスクリームをテイクアウトで売っているお店に並んだ。
今日は甘いものをお腹いっぱいになるまで食べると決めていたのだ。
寒さをたっぷりとはらんだ風に吹かれると、夕里は背中を丸めて「寒い寒い」とひたすら唱える。
すると、途端に右隣が温かくなった。
「何……なに、何でくっついてんの……?」
「寒いから体温分けてよ。俺、風邪引くの嫌だし」
「俺だって風邪引きたくないし」
とはいえ、連れてきたのは自分なので離れろと無下にも出来ない。
寒いなんて言いながら体温は夕里よりも高くて、こっちのほうが火照ってしょうがない。
空気を含んだふわふわのソフトクリームは、一見ボリュームはあるけれど一口が軽くて食べやすい。
特殊な金具で絞られたクリームは、レースのような模様をしている。
銀色のアザランがトッピングされていて、まるでお洒落なインテリアのような形をしたそれは、何より映える。
夕里はストロベリー味を、茅野はバニラ味をそれぞれ頼んだ。
「冬に冷たいもの食べるのもなかなか乙だね」
「あーっ、まだ食べるなって! 写真っ。写真撮ってから!」
「そっか、デートだもんね? ごめんね気付かなくて」
夕里が頭上斜め上にスマートフォンを掲げると、茅野が屈んで画面に入ろうとしてくる。
いつもは1人とスイーツだけなので、その倍を収めるには結構コツがいる。
「……ちょっと、寄り過ぎだってば」
「こうでもしないと俺も入らないでしょ」
「イケメンが映ったほうがいいねが増えるから、入らせてるだけなんだからなっ!」
何枚か撮った中で自分が上手く盛れている写真を、てきぱきと加工してアップする。
表情をつくらずに自然に映るだけでイケメンだなんて、神様は茅野にいろいろと与えすぎなのだと思う。
写真に夢中になっていると、手に持っているソフトクリームの形が崩れていく。
手首を引き寄せられて、溶けて落ちそうになった滴を茅野が舐めた。
「俺の分なのに……っ! 茅野の分ももらってやるからな」
「夕里、一口が大きい」
腹いせに頂上からがぶりと頬張ってやった。
バニラ味は大きくなってからお子様っぽくてまず最初に選ばなくなったけれど、久し振りに食べるスタンダードな味もなかなかに美味しい。
満足に写真を撮り終えた後は、もちろん最後まで美味しくいただいた。
携帯に届くいいねの数はいつもより桁違いだ。
コメントも滅多につかないのに、隣の黒髪の男の子はイケメンだとか、イケメン君の名前教えてだとか……。
──どうせ俺は引き立て役だよ……。
嫉妬なんてらしくない。好きなやつに対する嫉妬なんて。
むすっと膨れた夕里の頬を、茅野が手の甲でうりうりと押しつけるように撫でた。
乾燥していてひんやりした手に驚いて、夕里は肩をびくりとさせた後、顔を背ける。
きゅんきゅんし返すつもりが、いつものペースにのせられてドキドキさせられてばかりだ。
「次行くぞ、次」と夕里が仕切り直すと、茅野は「はいはい」と嬉しげに溢して隣にぴたりとくっつく。
言葉ではからかわれてばかりだけれど、こういう迷いのない行動力は好きだったりする。
香ばしいキャラメル味のついた羽が見事なクレープ、ふわふわのフロマージュをのせたタピオカドリンク、その他いろいろな甘いものを梯子する。
茅野は途中でギブアップして、夕里の分から一口だけを少しずつもらっていた。
「甘いもの食べてるときが1番幸せそうな顔してるね」
「んー……幸せ……。甘いものに囲まれて生活したいぃ……。チョコレート風呂とかさ、ロマンあるよな」
目を輝かせて語る夕里に、茅野は困った顔を見せる。
唇にちょこんとついているクリームで出来た白髭を、くすくすと笑いながら茅野は夕里に気付かれないうちにこっそりと写真に収めた。
「甘いものと俺だったら、どっちが好き?」
「甘いものかなぁ……いた、痛い……っ」
「あーそっかぁ。夕里はタピオカ食べ過ぎて頬っぺたがこんなにふにふにになったんだもんね?」
「いた……タピオカをバカにするなっ」
強めに頬を指で摘ままれて、夕里はむくれる。
駆け引きには滅法弱い夕里は、素直に1番大好きな甘いものを即答してしまう。
これではせっかくの恋愛攻略本が何の意味をなさない。
──そもそも茅野がきゅんきゅんするところなんて、想像つかないぞ!? だって、茅野ってもっぱらきゅんきゅんさせる側だろ!? 何で気付かなかったんだ俺……。
恋愛経験のなさが後を引っ張って、夕里のほうが些細なことで胸をときめかせてしまうのだ。
この差は正直ずるいと思う。
──俺はたくさん悩んで茅野を好きになったのに。
進展したり後退したりしていた片想いも、実はほろ苦くて好きだった。
今はちょっと別の不安に押し潰されそうだ。
店の雑貨や服を見回った後で外に出てみると、日は傾き始めていた。
この季節になると夕刻は一瞬で、すぐに真っ暗になってしまう。
ぱっと目を離したらすぐ夜が来る。そんな冬の隙間の時間が、ちょっと切ないけれど楽しい。
少し足を伸ばして大きい商業施設に来た夕里達は、まず最初にアイスクリームをテイクアウトで売っているお店に並んだ。
今日は甘いものをお腹いっぱいになるまで食べると決めていたのだ。
寒さをたっぷりとはらんだ風に吹かれると、夕里は背中を丸めて「寒い寒い」とひたすら唱える。
すると、途端に右隣が温かくなった。
「何……なに、何でくっついてんの……?」
「寒いから体温分けてよ。俺、風邪引くの嫌だし」
「俺だって風邪引きたくないし」
とはいえ、連れてきたのは自分なので離れろと無下にも出来ない。
寒いなんて言いながら体温は夕里よりも高くて、こっちのほうが火照ってしょうがない。
空気を含んだふわふわのソフトクリームは、一見ボリュームはあるけれど一口が軽くて食べやすい。
特殊な金具で絞られたクリームは、レースのような模様をしている。
銀色のアザランがトッピングされていて、まるでお洒落なインテリアのような形をしたそれは、何より映える。
夕里はストロベリー味を、茅野はバニラ味をそれぞれ頼んだ。
「冬に冷たいもの食べるのもなかなか乙だね」
「あーっ、まだ食べるなって! 写真っ。写真撮ってから!」
「そっか、デートだもんね? ごめんね気付かなくて」
夕里が頭上斜め上にスマートフォンを掲げると、茅野が屈んで画面に入ろうとしてくる。
いつもは1人とスイーツだけなので、その倍を収めるには結構コツがいる。
「……ちょっと、寄り過ぎだってば」
「こうでもしないと俺も入らないでしょ」
「イケメンが映ったほうがいいねが増えるから、入らせてるだけなんだからなっ!」
何枚か撮った中で自分が上手く盛れている写真を、てきぱきと加工してアップする。
表情をつくらずに自然に映るだけでイケメンだなんて、神様は茅野にいろいろと与えすぎなのだと思う。
写真に夢中になっていると、手に持っているソフトクリームの形が崩れていく。
手首を引き寄せられて、溶けて落ちそうになった滴を茅野が舐めた。
「俺の分なのに……っ! 茅野の分ももらってやるからな」
「夕里、一口が大きい」
腹いせに頂上からがぶりと頬張ってやった。
バニラ味は大きくなってからお子様っぽくてまず最初に選ばなくなったけれど、久し振りに食べるスタンダードな味もなかなかに美味しい。
満足に写真を撮り終えた後は、もちろん最後まで美味しくいただいた。
携帯に届くいいねの数はいつもより桁違いだ。
コメントも滅多につかないのに、隣の黒髪の男の子はイケメンだとか、イケメン君の名前教えてだとか……。
──どうせ俺は引き立て役だよ……。
嫉妬なんてらしくない。好きなやつに対する嫉妬なんて。
むすっと膨れた夕里の頬を、茅野が手の甲でうりうりと押しつけるように撫でた。
乾燥していてひんやりした手に驚いて、夕里は肩をびくりとさせた後、顔を背ける。
きゅんきゅんし返すつもりが、いつものペースにのせられてドキドキさせられてばかりだ。
「次行くぞ、次」と夕里が仕切り直すと、茅野は「はいはい」と嬉しげに溢して隣にぴたりとくっつく。
言葉ではからかわれてばかりだけれど、こういう迷いのない行動力は好きだったりする。
香ばしいキャラメル味のついた羽が見事なクレープ、ふわふわのフロマージュをのせたタピオカドリンク、その他いろいろな甘いものを梯子する。
茅野は途中でギブアップして、夕里の分から一口だけを少しずつもらっていた。
「甘いもの食べてるときが1番幸せそうな顔してるね」
「んー……幸せ……。甘いものに囲まれて生活したいぃ……。チョコレート風呂とかさ、ロマンあるよな」
目を輝かせて語る夕里に、茅野は困った顔を見せる。
唇にちょこんとついているクリームで出来た白髭を、くすくすと笑いながら茅野は夕里に気付かれないうちにこっそりと写真に収めた。
「甘いものと俺だったら、どっちが好き?」
「甘いものかなぁ……いた、痛い……っ」
「あーそっかぁ。夕里はタピオカ食べ過ぎて頬っぺたがこんなにふにふにになったんだもんね?」
「いた……タピオカをバカにするなっ」
強めに頬を指で摘ままれて、夕里はむくれる。
駆け引きには滅法弱い夕里は、素直に1番大好きな甘いものを即答してしまう。
これではせっかくの恋愛攻略本が何の意味をなさない。
──そもそも茅野がきゅんきゅんするところなんて、想像つかないぞ!? だって、茅野ってもっぱらきゅんきゅんさせる側だろ!? 何で気付かなかったんだ俺……。
恋愛経験のなさが後を引っ張って、夕里のほうが些細なことで胸をときめかせてしまうのだ。
この差は正直ずるいと思う。
──俺はたくさん悩んで茅野を好きになったのに。
進展したり後退したりしていた片想いも、実はほろ苦くて好きだった。
今はちょっと別の不安に押し潰されそうだ。
店の雑貨や服を見回った後で外に出てみると、日は傾き始めていた。
この季節になると夕刻は一瞬で、すぐに真っ暗になってしまう。
ぱっと目を離したらすぐ夜が来る。そんな冬の隙間の時間が、ちょっと切ないけれど楽しい。