デートプランはほぼ夕里の希望通りに決まり、午前はひたすらスイーツ店や新しく出来た施設をまわって、午後はゆっくりと甘いもの片手に散策する予定だ。
九重家の家主は今週末も不在のため、相談なしに茅野を泊めても怒られないのだろう。
雑誌で一目惚れしたグレーのタータンチェックのパンツに、襟元に黒のラインと胸元にブランドのロゴワッペンがついている白のニットを着て、無難なネイビーのダッフルコートを羽織って出かける。
かっちりとした格好に、派手めの髪色は少し浮き気味な気がして、ファーのついたベレー帽で誤魔化した。
いつもの学校の制服とほとんど変わらなくて、失敗したな、と思う。
引き返して着替えてくるような時間はないので、諦めて集合場所へ向かった。
電車に揺られながら頭の中ではずっと茅野のことを考えていて、そのところどころの切れ端で「わああぁ……」と叫びだしたくなる衝動に駆られる。
──いっつも俺ばっかりが茅野にきゅんきゅんさせられてずるい……! 俺だってやれば出来るんだからな……今日は逆に俺がきゅんきゅんし返してやる……!
スペックでは完敗しているため、夕里に出来るのは捨て身の力押しだ。
むずむずしてどうしようもなくなって発散出来なくなる気持ちを思いしれ、と1週間かけて恥を捨てる特訓をしていたのだ。
恋愛の心理本やデートのテクニック本を読み漁ってきたので、今日こそはこっちが主導権を握ってやる。
夕里はよし、と気を引き締めて、人の流れに上手く沿って改札を抜けた。
「夕里っ」
こっちだよ、こっち、と高い位置で茅野が手を振ると、辺りにいた女の子が、一斉にぎろりと夕里を見た。
中性的な名前が災いして、明らかに敵意の込められた視線を、びしびしと身体に受けた。
そこにいるだけで存在感がすごいんだから自重しろ、と言いたいところだ。
以前、結愛が言っていた、茅野がモデルか何かにスカウトされた話は、あながち嘘ではないのだろう。
彼女なのか友達なのか、値踏みするような目線が煩わしくて、夕里はわざと見せつけるように茅野の空いている腕に抱きついた。
本に書いてあったことをそのまま実践しているだけ。
茅野を困らせたいだけ、と心の中で唱えながら。
「待たせてごめん」
「……別に、いいよ」
言葉少なにそう言うと、目を泳がせる。
きゅんきゅんしたかどうかは分からなかったが、普段の反応とは違うので手応えはある。
──これは……効果アリ?
茅野を独り占めしているせいで、相変わらずその場の女の子からの視線が痛いが、内心嬉しくて仕方がない。
「いつも制服だから分かんないけど、夕里ってお洒落さんだね。俺は地味な格好だけど、隣歩くの恥ずかしいなんて言わないでね」
「はぁ!? 嫌味かそれ!」
はつらつと言い返す夕里を見て、茅野の表情はいつもの得意気なものに変わる。
茅野のコーディネートはいたってシンプルだ。
無地のチノパンツに編み目の小さいニット、ウエストにベルトのついているグレーのコートを着ている。
夕里とファッションの系統は違えど、着こなしているのは間違いなく茅野だ。
一般より高身長で細身のスタイルと、天が一物も二物もばら蒔いたイケメンに、もはや対抗心も湧かない。
──こんなハイスペックの男の隣を歩いたら、俺のほうが晒される……!
ぱっと腕を離して、袖が触れるか触れないかの距離をとりながら歩き出す。
「……俺がいなかったら、何十人と女の子引き連れて歩いてそう」
「夕里は俺のこと、どんなふうに見てんの。本当いつも面白いよね、夕里」
そういえば茅野の第一印象って、親しみやすくはなかったよな。
何かもっと意地悪だったような……。
「茅野だって最初会ったときは、そんなに人当たりよくなかっただろ。もっと、遊んでそうっていうか……不良だって噂あったし!」
「まあ……好きな子には優しくしたいしね、俺」
あやふやな返答で誤魔化されて、思わずきゅんときそうになった。
それは答えになってないからな、と一応つけくわえると、茅野はしぶしぶ訳を話した。
「中学でも結構あったんだけど。高校に入ってから告白される回数増えたから、面倒くさくなって素っ気なくしてた。そしたらいつの間にか不良ってあだ名をつけられてたっていうだけ」
「自慢か……自慢なのかそれはっ!」
自虐的な自慢を聞かされて、少し前までは怒り任せに突っ込んでいたのにどこか心の端で引っかかった。
夕里が健気にちょこちょこと隣を歩きながら見上げていると、気付いた茅野が歩くペースを落としてくれる。
「俺のこといろいろ言うけど、夕里も大概だからね。いろいろと危うくて心配になる」
「……それ、寺沢にも言われたことある。危ういって何なんだ、失礼過ぎるぞ。成績か? それとも恋愛経験少な過ぎて危ういっていう意味なのか? ……なあ、聞いてんの!」
陰口にしか聞こえない件について、夕里は説明を求めるけれど、茅野は「そういうところもだよ」とにやけた顔で返答した。
九重家の家主は今週末も不在のため、相談なしに茅野を泊めても怒られないのだろう。
雑誌で一目惚れしたグレーのタータンチェックのパンツに、襟元に黒のラインと胸元にブランドのロゴワッペンがついている白のニットを着て、無難なネイビーのダッフルコートを羽織って出かける。
かっちりとした格好に、派手めの髪色は少し浮き気味な気がして、ファーのついたベレー帽で誤魔化した。
いつもの学校の制服とほとんど変わらなくて、失敗したな、と思う。
引き返して着替えてくるような時間はないので、諦めて集合場所へ向かった。
電車に揺られながら頭の中ではずっと茅野のことを考えていて、そのところどころの切れ端で「わああぁ……」と叫びだしたくなる衝動に駆られる。
──いっつも俺ばっかりが茅野にきゅんきゅんさせられてずるい……! 俺だってやれば出来るんだからな……今日は逆に俺がきゅんきゅんし返してやる……!
スペックでは完敗しているため、夕里に出来るのは捨て身の力押しだ。
むずむずしてどうしようもなくなって発散出来なくなる気持ちを思いしれ、と1週間かけて恥を捨てる特訓をしていたのだ。
恋愛の心理本やデートのテクニック本を読み漁ってきたので、今日こそはこっちが主導権を握ってやる。
夕里はよし、と気を引き締めて、人の流れに上手く沿って改札を抜けた。
「夕里っ」
こっちだよ、こっち、と高い位置で茅野が手を振ると、辺りにいた女の子が、一斉にぎろりと夕里を見た。
中性的な名前が災いして、明らかに敵意の込められた視線を、びしびしと身体に受けた。
そこにいるだけで存在感がすごいんだから自重しろ、と言いたいところだ。
以前、結愛が言っていた、茅野がモデルか何かにスカウトされた話は、あながち嘘ではないのだろう。
彼女なのか友達なのか、値踏みするような目線が煩わしくて、夕里はわざと見せつけるように茅野の空いている腕に抱きついた。
本に書いてあったことをそのまま実践しているだけ。
茅野を困らせたいだけ、と心の中で唱えながら。
「待たせてごめん」
「……別に、いいよ」
言葉少なにそう言うと、目を泳がせる。
きゅんきゅんしたかどうかは分からなかったが、普段の反応とは違うので手応えはある。
──これは……効果アリ?
茅野を独り占めしているせいで、相変わらずその場の女の子からの視線が痛いが、内心嬉しくて仕方がない。
「いつも制服だから分かんないけど、夕里ってお洒落さんだね。俺は地味な格好だけど、隣歩くの恥ずかしいなんて言わないでね」
「はぁ!? 嫌味かそれ!」
はつらつと言い返す夕里を見て、茅野の表情はいつもの得意気なものに変わる。
茅野のコーディネートはいたってシンプルだ。
無地のチノパンツに編み目の小さいニット、ウエストにベルトのついているグレーのコートを着ている。
夕里とファッションの系統は違えど、着こなしているのは間違いなく茅野だ。
一般より高身長で細身のスタイルと、天が一物も二物もばら蒔いたイケメンに、もはや対抗心も湧かない。
──こんなハイスペックの男の隣を歩いたら、俺のほうが晒される……!
ぱっと腕を離して、袖が触れるか触れないかの距離をとりながら歩き出す。
「……俺がいなかったら、何十人と女の子引き連れて歩いてそう」
「夕里は俺のこと、どんなふうに見てんの。本当いつも面白いよね、夕里」
そういえば茅野の第一印象って、親しみやすくはなかったよな。
何かもっと意地悪だったような……。
「茅野だって最初会ったときは、そんなに人当たりよくなかっただろ。もっと、遊んでそうっていうか……不良だって噂あったし!」
「まあ……好きな子には優しくしたいしね、俺」
あやふやな返答で誤魔化されて、思わずきゅんときそうになった。
それは答えになってないからな、と一応つけくわえると、茅野はしぶしぶ訳を話した。
「中学でも結構あったんだけど。高校に入ってから告白される回数増えたから、面倒くさくなって素っ気なくしてた。そしたらいつの間にか不良ってあだ名をつけられてたっていうだけ」
「自慢か……自慢なのかそれはっ!」
自虐的な自慢を聞かされて、少し前までは怒り任せに突っ込んでいたのにどこか心の端で引っかかった。
夕里が健気にちょこちょこと隣を歩きながら見上げていると、気付いた茅野が歩くペースを落としてくれる。
「俺のこといろいろ言うけど、夕里も大概だからね。いろいろと危うくて心配になる」
「……それ、寺沢にも言われたことある。危ういって何なんだ、失礼過ぎるぞ。成績か? それとも恋愛経験少な過ぎて危ういっていう意味なのか? ……なあ、聞いてんの!」
陰口にしか聞こえない件について、夕里は説明を求めるけれど、茅野は「そういうところもだよ」とにやけた顔で返答した。