「ゆうちゃんってさ」
「なっ、何?」
過剰に反応して振り返る夕里に、寺沢はどうしたの、と気にかけてくれる。
別にどうもしないのに、やけに心臓の音は煩くてドキドキしている。
「舜と遊ぶようになってから丸くなったよね」
「丸く……? 俺ってどんなふうに思われてんの」
「ゆうちゃん全然デレないし」
「友達の……しかも男にデレなんて必要あるか」
寺沢の発言を一蹴すると、夕里は手持ちぶさたにスマートフォンを弄る。
周りで「格好よかったねー」と言い合う女子に、何故か苛立っていて。
大好物の甘いものを食べてもイライラは解消されない。
「デレは言い過ぎだったけど、愛想つけたら最強だと思うよ」
「愛想? うちの弟みたいなやつか。……いや、あいつはどっちかっていうと猫被りだな」
自分には真似出来ない芸当だから、それはそれで一種の才能なのだろう。
とりあえず、千里にはいつもお世話になっているからドーナツくらいは手土産で買っておいてやろうかな、と思い、夕里は財布を持って席を立った。
× × ×
クリスマスソングやらクリスマス限定物品の催促のコマーシャルが溢れる中で、夕里は自宅に1人隠っていた。
千里はというとこれ見よがしにお洒落をして、日が落ちる前に出かけてしまう。「彼女?」と聞くと「バーカ」と憎たらしく返されてしまった。
適当に甘いものでも摘まむか、と冷蔵庫を開けるも、いつも母親の帰りが不規則のため、食料品は最低限しかストックしていない。
年越しのために買いだめしていたお菓子は、冬休みは外出の機会がなかったため、減りも予想より早かったのだ。
千里行きつけのスーパーでお菓子をこれでもかというくらい買い込むと、財布の中は随分寂しくなった。
ノスタルジックな雰囲気につい足を誘われて思わず、通学定期券を使ってイルミネーションが溶け込む街に繰り出していた。
今年のクリスマスカラーは薄めのサーモンピンクで、表通りにあるガラスのショーケースの中は、その一色が並んでいる。
いい雰囲気の情景を切り取って保存してみるけれど、つまらないを通り越して虚しくなってやめてしまった。
「1人でぼーっとしてるとおっさんに絡まれるぞ」と茶化す茅野が不意に浮かんで、夕里は口元だけで笑んだ。
「あいつは今、デートなんだよなぁ……」
特に会話を投げかける要素もない絵文字を送って悪戯してやろうかと画策するも、既読がついただけだったら余計にへこみそうでやっぱりやめた。
定期圏内でイルミネーションの街並みを見るだけだったのが、いつの間にか茅野の家のほうへ出向いていた。
かやのやの看板に書かれている閉店時間が22時から18時に書き変わっている。
暖簾を仕舞おうとしている直美とばったり会い、夕里はまごつく。
「あらあら、夕里くん。こんばんは。もしかして、お惣菜買いに来てくれたの?」
「あっ……そうです。閉めようとしてたのに、すみません」
年末が近いから営業時間も短くなっているのだろうか。
「準備中」の札を下げた扉を開けてもらい、夕里は暗くなっている店に上がった。
「いつもより種類は少ないんだけど……その分多めにサービスしてあげるわね」
「そんな、お気遣いなく……」
ぐるりと見回してみれば、確かに品目はいつもより少ない。
売り切れているものもあって、もの寂しい感じがした。
「お店。閉めるの早くてびっくりしたでしょう。主人が田舎に帰っていてね……」
「え、どうしたんですか。喧嘩……とか?」
一方が田舎に帰ると聞かされて、夕里は仲違いをしたという発想に行き着いた。
九重家の両親も夕里が原因で離れて暮らしているので、茅野のことも心配になった。
「喧嘩? そうでもないのよ。主人のお父さんがぎっくり腰になっちゃってね……。お母さんだけじゃ見られないから田舎に帰っているの。生活があるからお店を完全に閉める訳にはいかなくてねぇ。お客様には申し訳ないけど、営業時間を短縮させてもらっているの」
とりあえずほっとするも、1人が減った穴は埋められずこの1週間ほどは短縮営業をしていると直美は言った。
偶然かどうかは分からないが、茅野が夕里専用のお弁当を持ってこなくなった日とちょうど重なる。
「毎日舜が手伝ってはくれていたんだけど……あの子も遊びたいだろうに申し訳なくて。クリスマスは予定があるらしいから今日は出かけているわ」
──知ってる。彼女とデートだろ。
茅野がいないことは分かりきっているのに、どこか心の隅のほうで期待してしまっている自分がいる。
実家の手伝いが特に必要なのに、茅野と一緒にいたいという感情を先走らせて負担をかけてしまった。
「あの、俺……」
重荷に耐えきれなくなって白状しようとしたとき、奥から舞が寝惚けた目を擦りながらやって来た。
「お母さん、お腹空いたぁ……。……あっ、夕にいだ! 遊びに来てくれたの? 夕にい!」
一直線に夕里めがけて小走りで寄ってきた舞が、ひしと抱きつく。
遊ぼうよ、と手を引っ張られて夕里は笑顔でいいよと答えた。
「なっ、何?」
過剰に反応して振り返る夕里に、寺沢はどうしたの、と気にかけてくれる。
別にどうもしないのに、やけに心臓の音は煩くてドキドキしている。
「舜と遊ぶようになってから丸くなったよね」
「丸く……? 俺ってどんなふうに思われてんの」
「ゆうちゃん全然デレないし」
「友達の……しかも男にデレなんて必要あるか」
寺沢の発言を一蹴すると、夕里は手持ちぶさたにスマートフォンを弄る。
周りで「格好よかったねー」と言い合う女子に、何故か苛立っていて。
大好物の甘いものを食べてもイライラは解消されない。
「デレは言い過ぎだったけど、愛想つけたら最強だと思うよ」
「愛想? うちの弟みたいなやつか。……いや、あいつはどっちかっていうと猫被りだな」
自分には真似出来ない芸当だから、それはそれで一種の才能なのだろう。
とりあえず、千里にはいつもお世話になっているからドーナツくらいは手土産で買っておいてやろうかな、と思い、夕里は財布を持って席を立った。
× × ×
クリスマスソングやらクリスマス限定物品の催促のコマーシャルが溢れる中で、夕里は自宅に1人隠っていた。
千里はというとこれ見よがしにお洒落をして、日が落ちる前に出かけてしまう。「彼女?」と聞くと「バーカ」と憎たらしく返されてしまった。
適当に甘いものでも摘まむか、と冷蔵庫を開けるも、いつも母親の帰りが不規則のため、食料品は最低限しかストックしていない。
年越しのために買いだめしていたお菓子は、冬休みは外出の機会がなかったため、減りも予想より早かったのだ。
千里行きつけのスーパーでお菓子をこれでもかというくらい買い込むと、財布の中は随分寂しくなった。
ノスタルジックな雰囲気につい足を誘われて思わず、通学定期券を使ってイルミネーションが溶け込む街に繰り出していた。
今年のクリスマスカラーは薄めのサーモンピンクで、表通りにあるガラスのショーケースの中は、その一色が並んでいる。
いい雰囲気の情景を切り取って保存してみるけれど、つまらないを通り越して虚しくなってやめてしまった。
「1人でぼーっとしてるとおっさんに絡まれるぞ」と茶化す茅野が不意に浮かんで、夕里は口元だけで笑んだ。
「あいつは今、デートなんだよなぁ……」
特に会話を投げかける要素もない絵文字を送って悪戯してやろうかと画策するも、既読がついただけだったら余計にへこみそうでやっぱりやめた。
定期圏内でイルミネーションの街並みを見るだけだったのが、いつの間にか茅野の家のほうへ出向いていた。
かやのやの看板に書かれている閉店時間が22時から18時に書き変わっている。
暖簾を仕舞おうとしている直美とばったり会い、夕里はまごつく。
「あらあら、夕里くん。こんばんは。もしかして、お惣菜買いに来てくれたの?」
「あっ……そうです。閉めようとしてたのに、すみません」
年末が近いから営業時間も短くなっているのだろうか。
「準備中」の札を下げた扉を開けてもらい、夕里は暗くなっている店に上がった。
「いつもより種類は少ないんだけど……その分多めにサービスしてあげるわね」
「そんな、お気遣いなく……」
ぐるりと見回してみれば、確かに品目はいつもより少ない。
売り切れているものもあって、もの寂しい感じがした。
「お店。閉めるの早くてびっくりしたでしょう。主人が田舎に帰っていてね……」
「え、どうしたんですか。喧嘩……とか?」
一方が田舎に帰ると聞かされて、夕里は仲違いをしたという発想に行き着いた。
九重家の両親も夕里が原因で離れて暮らしているので、茅野のことも心配になった。
「喧嘩? そうでもないのよ。主人のお父さんがぎっくり腰になっちゃってね……。お母さんだけじゃ見られないから田舎に帰っているの。生活があるからお店を完全に閉める訳にはいかなくてねぇ。お客様には申し訳ないけど、営業時間を短縮させてもらっているの」
とりあえずほっとするも、1人が減った穴は埋められずこの1週間ほどは短縮営業をしていると直美は言った。
偶然かどうかは分からないが、茅野が夕里専用のお弁当を持ってこなくなった日とちょうど重なる。
「毎日舜が手伝ってはくれていたんだけど……あの子も遊びたいだろうに申し訳なくて。クリスマスは予定があるらしいから今日は出かけているわ」
──知ってる。彼女とデートだろ。
茅野がいないことは分かりきっているのに、どこか心の隅のほうで期待してしまっている自分がいる。
実家の手伝いが特に必要なのに、茅野と一緒にいたいという感情を先走らせて負担をかけてしまった。
「あの、俺……」
重荷に耐えきれなくなって白状しようとしたとき、奥から舞が寝惚けた目を擦りながらやって来た。
「お母さん、お腹空いたぁ……。……あっ、夕にいだ! 遊びに来てくれたの? 夕にい!」
一直線に夕里めがけて小走りで寄ってきた舞が、ひしと抱きつく。
遊ぼうよ、と手を引っ張られて夕里は笑顔でいいよと答えた。