……────。
クリスマスが近付くにつれて浮かれ始めているクラスの雰囲気に焦りを覚えつつ、合コンで知り合った女の子を誘おうかと迷っていた。
送るつもりのメッセージを何度も書いては消して、ようやく出来たものを送信する。
『ごめん。その日は舜くんとデートの予定』
がっつりハートマークつきで、夕里も知らなかった茅野の予定を暴露された。
結愛とは進展があったと思っていただけに、ショックも大きい。
──今さら誰も誘えないし、誘われたとしても行きづらい。
あれだけ浮かれていたのに、今は無気力で何もやる気が起きない。
いつも遊んでいたから、クリスマスも男同士でつるむのだと思っていた。
──抜けがけしようとしたのは、俺なんだよなぁ。
彼女をつくりたいなんて言い出さなければ、いい距離の関係でいられたのに。
結局は茅野と結愛をくっつけただけになってしまった。
さらにはお弁当も今日からないと言われれば、あからさまに距離を取られているのが丸分かりで、さすがにへこむ。
進路調査のプリントは夕里だけが未提出で、今朝のホームルームで担任にも注意された。
大学だけでも書いて出すように言われたが、いまいちイメージもわかない。
入学時点で専攻する科が分かれている学部もあるからそれも考えてみたらどうだ、ともアドバイスされた。
大学と学部を決めればいいと考えていただけに衝撃だ。
「なあ、俺って将来何してそうな感じ?」
「アパレルショップの店員かな。ゆうちゃん、ちょっと奇抜だけどお洒落さんだもんね」
クラスメートにも散々言われた、夕里の将来の夢のテンプレートを、寺沢は答えた。
「ケーキ屋で働いてそう。天職じゃん」
それはいいかもしれない、と茅野の意見に同意しようとしたところで、どっちもスーツを着ない仕事だよなぁ、と迷う。
「とりあえず母さんが弁護士だから法学部かなー、とは思ってるんだけど」
ネットの検索で弁護士の後にスペースを入れてなるためには、と調べた、付け焼き刃の知識を話す。
ついでに法学部で有名な大学も一通り調べてみたけれど、授業の内容よりもキャンパスや大学の施設に目移りしてしまった。
「大学の中にコンビニとかカフェがあるの、すごくないか? すごいよな?」
何でも形から入る夕里に、2人は笑った。
放課後にファストフード店に入り、今後の人生相談にのってもらっているのだ。
「指定校推薦っていう手もあるけどね。内申が重視されるやつ」
「してい……? 何だそれ」
「受験しなくても進学出来るんだよ。でも、ゆうちゃんは内申頼りだとちょっときついかも」
字面も浮かばない夕里には縁のない話のようだ。
テストはいつも赤点ギリギリで通っているような夕里の内申は、三者面談でも大人達に苦笑いされるほどには悲惨だった。
特盛の生クリームがのったチョコレートドリンクをストローでちまちまと飲みながら、夕里は2人の進路について聞いた。
寺沢はかなりレベルの高い大学を挑戦校として受験するようで、素直にすごい、と舌を巻いた。
「茅野はどこ受けんの?」
「んー……栄養士の資格が取れるところ」
大学はどこにするかはまだ考え中だけどね、と茅野はつけ足した。
「やっぱり、かやのや継いだりすんの?」
「さあ、まだ分かんないけど。休みの日にちび達にご飯つくってるから、そういう仕事が出来たらいいなって思ってる」
ふわふわした自分の希望がいかに脆くて、計画性がないか思い知らされる。
でも、自然なほどに苛立ちはなくて。
諦めだとかもともと出来が違うからだとか、そんなネガティブな思考にはならない。
──むしろ、茅野のことを知れて嬉しかったり……?
成績も悪くなく、このままの水準を落とさなければ合格圏内らしい。
「俺はそろそろ出るから。ゆっくりしていっていいよ」
「……え? 今日、用事あったの? ……ごめん」
「実家の手伝い。別に気にしなくていいよ」
炭酸の飲み物だけ手にして、茅野は店から出ていった。
3人のテーブルに集まっていた女子の視線は一気になくなってしまい、居心地は少しよくなった。
茅野が1人になったタイミングで何人かに話しかけられたけれど、角が立たないように断って立ち去った。
茅野のトレーには口をつけていないドーナツが2つ残っている。
寺沢はさも当然のように2つともを、夕里に譲った。
友達の歴は寺沢のほうが長いのにいざ茅野がいなくなると、話題に困る。
余った生クリームにドーナツを浸して口に運び、もういないことは分かっているのに店の外を眺めた。
クリスマスが近付くにつれて浮かれ始めているクラスの雰囲気に焦りを覚えつつ、合コンで知り合った女の子を誘おうかと迷っていた。
送るつもりのメッセージを何度も書いては消して、ようやく出来たものを送信する。
『ごめん。その日は舜くんとデートの予定』
がっつりハートマークつきで、夕里も知らなかった茅野の予定を暴露された。
結愛とは進展があったと思っていただけに、ショックも大きい。
──今さら誰も誘えないし、誘われたとしても行きづらい。
あれだけ浮かれていたのに、今は無気力で何もやる気が起きない。
いつも遊んでいたから、クリスマスも男同士でつるむのだと思っていた。
──抜けがけしようとしたのは、俺なんだよなぁ。
彼女をつくりたいなんて言い出さなければ、いい距離の関係でいられたのに。
結局は茅野と結愛をくっつけただけになってしまった。
さらにはお弁当も今日からないと言われれば、あからさまに距離を取られているのが丸分かりで、さすがにへこむ。
進路調査のプリントは夕里だけが未提出で、今朝のホームルームで担任にも注意された。
大学だけでも書いて出すように言われたが、いまいちイメージもわかない。
入学時点で専攻する科が分かれている学部もあるからそれも考えてみたらどうだ、ともアドバイスされた。
大学と学部を決めればいいと考えていただけに衝撃だ。
「なあ、俺って将来何してそうな感じ?」
「アパレルショップの店員かな。ゆうちゃん、ちょっと奇抜だけどお洒落さんだもんね」
クラスメートにも散々言われた、夕里の将来の夢のテンプレートを、寺沢は答えた。
「ケーキ屋で働いてそう。天職じゃん」
それはいいかもしれない、と茅野の意見に同意しようとしたところで、どっちもスーツを着ない仕事だよなぁ、と迷う。
「とりあえず母さんが弁護士だから法学部かなー、とは思ってるんだけど」
ネットの検索で弁護士の後にスペースを入れてなるためには、と調べた、付け焼き刃の知識を話す。
ついでに法学部で有名な大学も一通り調べてみたけれど、授業の内容よりもキャンパスや大学の施設に目移りしてしまった。
「大学の中にコンビニとかカフェがあるの、すごくないか? すごいよな?」
何でも形から入る夕里に、2人は笑った。
放課後にファストフード店に入り、今後の人生相談にのってもらっているのだ。
「指定校推薦っていう手もあるけどね。内申が重視されるやつ」
「してい……? 何だそれ」
「受験しなくても進学出来るんだよ。でも、ゆうちゃんは内申頼りだとちょっときついかも」
字面も浮かばない夕里には縁のない話のようだ。
テストはいつも赤点ギリギリで通っているような夕里の内申は、三者面談でも大人達に苦笑いされるほどには悲惨だった。
特盛の生クリームがのったチョコレートドリンクをストローでちまちまと飲みながら、夕里は2人の進路について聞いた。
寺沢はかなりレベルの高い大学を挑戦校として受験するようで、素直にすごい、と舌を巻いた。
「茅野はどこ受けんの?」
「んー……栄養士の資格が取れるところ」
大学はどこにするかはまだ考え中だけどね、と茅野はつけ足した。
「やっぱり、かやのや継いだりすんの?」
「さあ、まだ分かんないけど。休みの日にちび達にご飯つくってるから、そういう仕事が出来たらいいなって思ってる」
ふわふわした自分の希望がいかに脆くて、計画性がないか思い知らされる。
でも、自然なほどに苛立ちはなくて。
諦めだとかもともと出来が違うからだとか、そんなネガティブな思考にはならない。
──むしろ、茅野のことを知れて嬉しかったり……?
成績も悪くなく、このままの水準を落とさなければ合格圏内らしい。
「俺はそろそろ出るから。ゆっくりしていっていいよ」
「……え? 今日、用事あったの? ……ごめん」
「実家の手伝い。別に気にしなくていいよ」
炭酸の飲み物だけ手にして、茅野は店から出ていった。
3人のテーブルに集まっていた女子の視線は一気になくなってしまい、居心地は少しよくなった。
茅野が1人になったタイミングで何人かに話しかけられたけれど、角が立たないように断って立ち去った。
茅野のトレーには口をつけていないドーナツが2つ残っている。
寺沢はさも当然のように2つともを、夕里に譲った。
友達の歴は寺沢のほうが長いのにいざ茅野がいなくなると、話題に困る。
余った生クリームにドーナツを浸して口に運び、もういないことは分かっているのに店の外を眺めた。