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「ゆうちゃん、甘いものいっぱい食べられてよかったね?」

「……茅野がイケメンだって再認識した。いろいろと勉強になったよ」

女の子の話題にはわざと触れずに話しかける寺沢に、全く噛み合わない返事をする。

視線の先には左右を囲まれている茅野がいて、夕里はがっくりと肩を落とした。

もちろん結愛も茅野のすぐ隣にいて、胸がもやもやとする。

茅野の1人勝ちで合コンは解散になり、特に寄り道をする予定もなかったので、自然と帰路は2人きりになる。

駅のホームに降りていく途中で、茅野は口を開いた。

「……で、何で夕里はいきなり彼女つくるっていう話になってるの?」

「は、はぁ? そっちこそいきなり何だよ。……というか、俺は高校入学してから可愛い彼女つくるって決めてたの!」

何で俺が責められてるみたいになってるんだ。

膨れていると不意にふに、と頬をつねられて、夕里は飛び上がった。

「女の子ともまともに話せないのに? ……俺にしておきなよ」

「緊張してただけだし……。俺が可愛いとか、茅野ってたまにとんでもない冗談言うよな」

その緊張感が異性を意識し始めてから多少も薄れなくて、友達以上よりも踏みきれない。


──思ったよりも、俺って恋愛体質じゃないのかもな。


「冗談って。何でそんなに寂しそうな顔して言うの」

「寂しそうになんかしてない……」

2人が乗る電車はたった今離れたばかりで、7時前のホームは帰宅ラッシュの社会人は捌けて、人影はほとんど見えない。

「ね、俺達付き合おっか」

まるで、これから寄り道しようか、というような軽いトーンだった。

いつもだったら、「はあ!?」から始まる台詞の後に、ぎゃんぎゃんとありったけの文句をぶつけるのに。

「うん」って言いたい。

楽になりたい……でも、「冗談だよ」なんてはぐらかされるのが、怖かった。

特別な意味なんてないと分かりきっているのに、ずしんと積もった重いものが、触れられると消えてしまうのだ。

「何で……俺に意地悪すんの。俺なんて茅野みたいに恋愛経験ないし? からかうの面白いんだろうけど……! 俺は、女の子と付き合いたいし」

「そっか。じゃあ、これで終わりな」

「……え?」

夕里って意外とピュアだよね、とか、またそんなからかいを混ぜた台詞が返ってくるものだと思っていた。

電車の扉が開いても、夕里はしばらく立ち尽くしていた。

前の大きな背中が遠ざかったので、反射的に追いかける。ぼうっとしていたら人の波に押されて、茅野のほうへよろめいてしまった。

「何やってんの。夕里、小さいんだから。潰されないようにこっちに寄りな」

毎朝のラッシュ時よりは空いているけれど、多少はぶつかり合う程度の距離感。

口を開こうとしたら誰かの腕が当たって、茅野の胸にそのまま埋まる。


──あ、茅野の匂い……。


茅野の私物を嗅いだときとは少し違う、汗と多分、茅野の家の匂いが混ざっていて。

シャツの匂いとすぐ隣に体温があって、火照る頬と触れている。

気付かれないように、夕里は手をまわしてブレザーの裾を掴んでいた。