× × ×
──本っ当、最悪……! 泣き顔が可愛い、って何だよ。イケメンなら何言っても許されるのか!?
1ヶ月に1度、15日だけ限定でメニュー表に載るショートケーキが遠退いて、来月の予定になってしまった。チョコクリームがたっぷり入った菓子パンを頬張りながら、夕里は昨日投稿された例のショートケーキ画像にハートを送る。
「甘いもの食べてるのに不機嫌なゆうちゃん初めて見た」
「……ゆうちゃんって言うな」
昼休憩によくつるんでいる寺沢に、額を指で弾かれた。寺沢 朝日も茅野と並んで女子人気が高く、彼女を取っ替え引っ替えしているだとか、彼女が両手で数え切れないほどいるだとか、噂の絶えない奴だ。
耳にアーチ状に並ぶピアスに、夕里はいつも痛そうだな、と眉を潜める。昨日からといい、イケメンは視界に入れたくない。夕里はチョココロネを口にくわえて、手元のスマートフォンに夢中になる。
「はぁ……イケメンぶん殴りたい」
夕里の呟きに、寺沢は「怖い怖い」とけらけら笑った。寺沢は紙パックのミルクティーと家から持参した弁当を、夕里の机に置いて「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
寺沢の弁当には定番の唐揚げや卵焼き、プチトマトなどが彩りよく敷き詰められている。
「ゆうちゃんいっつも菓子パンだね。糖分以外にも栄養取らないと大きくなれないよ」
「……イケメンとは話したくない」
寺沢には全く非はないけれど、こういうキラキラした王子様系の男を見ると、昨日の茅野を思い出す。背筋からぞわわっと悪寒が走り抜けて、危うく口元のパンを落としそうになった。
「何か嫌なことでもあった? 俺の卵焼きあげるから元気出して」
寺沢は夕里にやることをさらっと女子にも適用してしまうのだ。間接キスとか、逆に意識しないほうがもてるのかもしれない。
「お前の家の卵焼き、塩辛いからやだ」
「塩辛いって。ゆうちゃんが甘いものばっか食べてるからそう感じるんだよ。うちのは普通のだし巻きだから」
はい、と寺沢は卵焼きを半分に割って、夕里に食べさせようとする。頑なにお弁当シェアを拒否し続ける夕里に諦めて、寺沢は箸を引っ込めた。
「ゆうちゃん本当頑固だね。好き嫌い多すぎ! お嫁さんもらったらどうするの?」
「それ言うなら彼女だろ。お菓子作りが趣味の子見つけるからいいよ」
寺沢とわいわい言い合っていたから、教室の入り口でクラスメートが何やら騒がしくなっていることに気付かなかった。夕里の机に見慣れない青色の弁当袋が置かれる。
「彼女つくるとか酷くね? 俺達昨日から付き……」
すぐさま男の台詞の上から、夕里は「わあー!」と叫んだ。自分の反射神経を褒めてやりたい。注目を集めようが今はどうでもいい。
しゃがんだ茅野が、夕里の目線の下でにやりとほくそ笑んだ。
「お、舜じゃん。久しぶりー」
「朝日か。話すのってクラス替えのとき以来だっけ?」
「夏休み入る前に1回遊びに行ったきり」
夕里の前で仲良く話す2人に、夕里は置いてきぼりにされたような疎外感を感じた。
「てか、ゆうちゃんと知り合い? 何か知ってるふうだったけど」
「昨日初めて会った」
茅野は空いた椅子を夕里の机まで持ってくると、誰かの手作りらしい弁当を拡げ始める。
くまのアップリケが縫いつけられていて年季の入ったそれは、茅野が使うのには不釣り合いな気がした。
「ゆうちゃん可愛いし甘いもの好きだし女の子みたいでしょ?」
「知ってる。うちのクラスの女子の間でマスコットキャラで人気だから」
昨日、茅野が自分の名前を知っていることに違和感を感じていたが、合点がいった。
どうやら夕里の扱いは、どこのクラスでも彼氏にしたい男子ではなくて、友達感覚で付き合いたい異性なのだ。
ミーハーな夕里はよくも悪くも流されやすい気質で、どちらかというとちやほやされたい部類の人間だ。
「マスコットキャラで悪かったな」
「何、拗ねてんの。可愛くていいと思うよ。マスコット」
茅野はくすくすと笑いながら、手作りのポテトサラダに箸をつける。花型にくりぬかれた人参やコーンが入っていて、なかなかに手が込んでいる。
ミートボールや卵焼き、タコのウインナーなど、高校生サイズの弁当の中に綺麗に収まっていた。
「昼飯それだけ?」
「何だよ。おかず交換とかしないからな」
夕里は身を乗り出して、机の上の菓子パンを自分の身体で覆い隠す。そうすると、またもや茅野の顔を見上げる形になってしまって、夕里は歯痒そうに眉を潜める。
どこの角度から見てもイケメンはイケメンで違いなくて、欠点などないのだ。染められていない髪は長めだけれど、不潔感は一切なく、目や鼻の1つ1つのパーツがいいだけに、茅野の生まれつきの魅力をよく引き立たせている。
夕里はといえば顔が小さく、生まれたときからくっきりついた二重のおかげで、「女の子みたい」と言われて育った。
自他ともに認めるミーハーで、流行りのスイーツから服装まで新しいものに何でも飛びついてしまう質だ。
「甘いもの好きなんだ?」
「見れば分かるだろ」
「素っ気ないな。もっとコミュニケーション取ろうよ、夕里くん?」
茅野は栄養バランスと彩りが完璧なお弁当箱のおかずをつつきながら、夕里をいじる。
意趣返しとばかりに、夕里のほうも女子力溢れるお弁当について茶化そうとする。
──本っ当、最悪……! 泣き顔が可愛い、って何だよ。イケメンなら何言っても許されるのか!?
1ヶ月に1度、15日だけ限定でメニュー表に載るショートケーキが遠退いて、来月の予定になってしまった。チョコクリームがたっぷり入った菓子パンを頬張りながら、夕里は昨日投稿された例のショートケーキ画像にハートを送る。
「甘いもの食べてるのに不機嫌なゆうちゃん初めて見た」
「……ゆうちゃんって言うな」
昼休憩によくつるんでいる寺沢に、額を指で弾かれた。寺沢 朝日も茅野と並んで女子人気が高く、彼女を取っ替え引っ替えしているだとか、彼女が両手で数え切れないほどいるだとか、噂の絶えない奴だ。
耳にアーチ状に並ぶピアスに、夕里はいつも痛そうだな、と眉を潜める。昨日からといい、イケメンは視界に入れたくない。夕里はチョココロネを口にくわえて、手元のスマートフォンに夢中になる。
「はぁ……イケメンぶん殴りたい」
夕里の呟きに、寺沢は「怖い怖い」とけらけら笑った。寺沢は紙パックのミルクティーと家から持参した弁当を、夕里の机に置いて「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
寺沢の弁当には定番の唐揚げや卵焼き、プチトマトなどが彩りよく敷き詰められている。
「ゆうちゃんいっつも菓子パンだね。糖分以外にも栄養取らないと大きくなれないよ」
「……イケメンとは話したくない」
寺沢には全く非はないけれど、こういうキラキラした王子様系の男を見ると、昨日の茅野を思い出す。背筋からぞわわっと悪寒が走り抜けて、危うく口元のパンを落としそうになった。
「何か嫌なことでもあった? 俺の卵焼きあげるから元気出して」
寺沢は夕里にやることをさらっと女子にも適用してしまうのだ。間接キスとか、逆に意識しないほうがもてるのかもしれない。
「お前の家の卵焼き、塩辛いからやだ」
「塩辛いって。ゆうちゃんが甘いものばっか食べてるからそう感じるんだよ。うちのは普通のだし巻きだから」
はい、と寺沢は卵焼きを半分に割って、夕里に食べさせようとする。頑なにお弁当シェアを拒否し続ける夕里に諦めて、寺沢は箸を引っ込めた。
「ゆうちゃん本当頑固だね。好き嫌い多すぎ! お嫁さんもらったらどうするの?」
「それ言うなら彼女だろ。お菓子作りが趣味の子見つけるからいいよ」
寺沢とわいわい言い合っていたから、教室の入り口でクラスメートが何やら騒がしくなっていることに気付かなかった。夕里の机に見慣れない青色の弁当袋が置かれる。
「彼女つくるとか酷くね? 俺達昨日から付き……」
すぐさま男の台詞の上から、夕里は「わあー!」と叫んだ。自分の反射神経を褒めてやりたい。注目を集めようが今はどうでもいい。
しゃがんだ茅野が、夕里の目線の下でにやりとほくそ笑んだ。
「お、舜じゃん。久しぶりー」
「朝日か。話すのってクラス替えのとき以来だっけ?」
「夏休み入る前に1回遊びに行ったきり」
夕里の前で仲良く話す2人に、夕里は置いてきぼりにされたような疎外感を感じた。
「てか、ゆうちゃんと知り合い? 何か知ってるふうだったけど」
「昨日初めて会った」
茅野は空いた椅子を夕里の机まで持ってくると、誰かの手作りらしい弁当を拡げ始める。
くまのアップリケが縫いつけられていて年季の入ったそれは、茅野が使うのには不釣り合いな気がした。
「ゆうちゃん可愛いし甘いもの好きだし女の子みたいでしょ?」
「知ってる。うちのクラスの女子の間でマスコットキャラで人気だから」
昨日、茅野が自分の名前を知っていることに違和感を感じていたが、合点がいった。
どうやら夕里の扱いは、どこのクラスでも彼氏にしたい男子ではなくて、友達感覚で付き合いたい異性なのだ。
ミーハーな夕里はよくも悪くも流されやすい気質で、どちらかというとちやほやされたい部類の人間だ。
「マスコットキャラで悪かったな」
「何、拗ねてんの。可愛くていいと思うよ。マスコット」
茅野はくすくすと笑いながら、手作りのポテトサラダに箸をつける。花型にくりぬかれた人参やコーンが入っていて、なかなかに手が込んでいる。
ミートボールや卵焼き、タコのウインナーなど、高校生サイズの弁当の中に綺麗に収まっていた。
「昼飯それだけ?」
「何だよ。おかず交換とかしないからな」
夕里は身を乗り出して、机の上の菓子パンを自分の身体で覆い隠す。そうすると、またもや茅野の顔を見上げる形になってしまって、夕里は歯痒そうに眉を潜める。
どこの角度から見てもイケメンはイケメンで違いなくて、欠点などないのだ。染められていない髪は長めだけれど、不潔感は一切なく、目や鼻の1つ1つのパーツがいいだけに、茅野の生まれつきの魅力をよく引き立たせている。
夕里はといえば顔が小さく、生まれたときからくっきりついた二重のおかげで、「女の子みたい」と言われて育った。
自他ともに認めるミーハーで、流行りのスイーツから服装まで新しいものに何でも飛びついてしまう質だ。
「甘いもの好きなんだ?」
「見れば分かるだろ」
「素っ気ないな。もっとコミュニケーション取ろうよ、夕里くん?」
茅野は栄養バランスと彩りが完璧なお弁当箱のおかずをつつきながら、夕里をいじる。
意趣返しとばかりに、夕里のほうも女子力溢れるお弁当について茶化そうとする。