「俺に内緒で何こそこそやってんの、夕里?」
茅野の言葉で何故か怒られているような気分になって、夕里はしゃきっと背筋を伸ばす。
次第に何でそんなに怒ってるんだ? と沸々と反発心のほうが浮かび上がってくる。
夕里は遠慮がちに、茅野の肩にストレートをぶつけた。
「……何で茅野も一緒に行くんだよ」
「夕里と遊びたいから。前に食べ損ねたケーキ、ご馳走してあげるから朝日との合コンは断りなよ」
甘いもので釣られて夕里はつい首を縦に振りそうになったが、絶好の機会を逃してしまうことになるので、茅野の誘いのほうを断った。
やや不満気な顔が整った顔に、如実に表れていて迫力がある。
「来たいなら来てもいいけど……? 男なんて顔じゃなくて話術だからな! 流行りのスイーツとかドラマとか音楽とか、全部語れるし……」
学校で使う教科書よりも、月刊の雑誌を一字一句まで読み込んでいる夕里には、見知らぬ話題などない。
最初の気恥ずかしい自己紹介を終えてしまえば、後は相手の好きなことを探りつつ、話を合わせていけばいけるはず……。
「俺には朝日とか他のやつに話してること、全然話してくれないじゃん。何で?」
「……何で、って。別に……」
好きなものやはまっているものなら数えきれないくらいあって、そのうちの半分は覚えていて半分は笑って忘れている。
少し目を引かれて気になる程度で、夢中にはならない程度のもの。
時々、そんな自分の薄っぺらい立ち位置に気付かされて、虚しくなるのだ。
目新しいものに飛びつく自分を、馬鹿らしく見ているんじゃないんだろうか。
──あれ。でも茅野って、甘いもの好きのことを悪く言ったりしなかったような。
「……俺だって、茅野のことよく知らない」
学年一の不良だとか彼女をとっかえひっかえしているだとか、聞いてきた噂はほとんどがでたらめで。
「何言ってんの。週3くらいで俺の家に遊びに来てるのに」
「遊びに行ってるんじゃないからな。客としてかやのやに行ってんの!」
初めての合コンで茅野が飛び入り参加したことにピリピリしているかと思いきや、結局はいつも通りに会話をする夕里を見て、寺沢は「よかったぁ」と間の抜けた声を出した。
「ゆうちゃんが舜と仲良くしてくれてると、何か安心する。人見知りなゆうちゃんが立派に育ってくれて嬉しいよ、俺」
親みたいにしみじみと呟かれて、夕里はむむっとして眉を寄せる。
スクールバッグを肩にかけた夕里が先頭を切りながら、ほぼ成人の背丈に近い2人を連れて合コンの会場へ向かった。
……────。
メルヘンな雰囲気の店内は現実にはいないような、派手な毛色をしたウサギやクマのぬいぐるみが、ソファにちょこんと座ってお茶会を催している。
ビスケットを積み上げた可愛らしい仕切りには、それぞれ女子高生のグループがいて、きゃっきゃっと騒ぎながらスマートフォンのシャッター音を響かせていた。
甘いものが無限に食べられるスイーツビュッフェという、夕里に気を遣った寺沢の采配はよかった。
女子のレベルも高くて、またとない機会をつくってくれた寺沢には感謝している。
夕里と寺沢はエクレアを型どった2人用のソファで肩を寄せ合いながら、女子の人気を総取りしている茅野を離れたところから見ていた。
「なあ……どういうこと? 皆で遊ぼうって感じの集まりじゃなかった?」
「舜が参加したらいつもこうだよ……。だからゆうちゃん、悪いけど今日のところは諦めて」
最初から負け戦だと分かりきっている合コンには、誰も参加しない訳だ。
軽い自己紹介を終えた後、女子は全て茅野が持っていき、質問という名の集中砲火を浴びせられている。
「休みの日は何してるの?」という当たり障りのないものや「今、彼女っている?」、「どんな子がタイプ?」という直球な質問も飛び交っていた。
度重なる男子側の欠員で、女子の人数のほうが2倍以上に多い。
絶対に妥協せず茅野を狙っている女子以外は、だんだんと夕里と寺沢のいるテーブルへとやって来た。
「舜はすごい人気でしょ。うちの学校でも毎日こんな感じ」
さっきまで茅野に首ったけだった彼女達を、寺沢はスマートに向かいの席に誘導する。
「毎日はさすがに盛り過ぎ。舜くん、遊んでそうだしなーんかちょっとやだなぁ」
パーマのかかった茶色の髪にくるくると指を絡ませながら、少し人のはけた茅野を見やる。
遊んでそうなのはそっちじゃないのか、と思うくらい、きっちりと濃いアイメイクをした女子は、テーブルに肘をついて断りもなく夕里の分のキャラメルポップコーンを摘まむ。
「適当に取ってくるけど、食べたいのある?」
「はい、はーい! あたし、苺のタルト食べたい!」
「オッケー。苺のタルトね。……ゆうちゃんは何にする?」
「……え? えーっと……シフォンケーキ。マーブル模様のやつ」
寺沢にぽんぽんと見えないように背中を叩かれる。
上手いこと図られて、2人きりになった。
茅野の言葉で何故か怒られているような気分になって、夕里はしゃきっと背筋を伸ばす。
次第に何でそんなに怒ってるんだ? と沸々と反発心のほうが浮かび上がってくる。
夕里は遠慮がちに、茅野の肩にストレートをぶつけた。
「……何で茅野も一緒に行くんだよ」
「夕里と遊びたいから。前に食べ損ねたケーキ、ご馳走してあげるから朝日との合コンは断りなよ」
甘いもので釣られて夕里はつい首を縦に振りそうになったが、絶好の機会を逃してしまうことになるので、茅野の誘いのほうを断った。
やや不満気な顔が整った顔に、如実に表れていて迫力がある。
「来たいなら来てもいいけど……? 男なんて顔じゃなくて話術だからな! 流行りのスイーツとかドラマとか音楽とか、全部語れるし……」
学校で使う教科書よりも、月刊の雑誌を一字一句まで読み込んでいる夕里には、見知らぬ話題などない。
最初の気恥ずかしい自己紹介を終えてしまえば、後は相手の好きなことを探りつつ、話を合わせていけばいけるはず……。
「俺には朝日とか他のやつに話してること、全然話してくれないじゃん。何で?」
「……何で、って。別に……」
好きなものやはまっているものなら数えきれないくらいあって、そのうちの半分は覚えていて半分は笑って忘れている。
少し目を引かれて気になる程度で、夢中にはならない程度のもの。
時々、そんな自分の薄っぺらい立ち位置に気付かされて、虚しくなるのだ。
目新しいものに飛びつく自分を、馬鹿らしく見ているんじゃないんだろうか。
──あれ。でも茅野って、甘いもの好きのことを悪く言ったりしなかったような。
「……俺だって、茅野のことよく知らない」
学年一の不良だとか彼女をとっかえひっかえしているだとか、聞いてきた噂はほとんどがでたらめで。
「何言ってんの。週3くらいで俺の家に遊びに来てるのに」
「遊びに行ってるんじゃないからな。客としてかやのやに行ってんの!」
初めての合コンで茅野が飛び入り参加したことにピリピリしているかと思いきや、結局はいつも通りに会話をする夕里を見て、寺沢は「よかったぁ」と間の抜けた声を出した。
「ゆうちゃんが舜と仲良くしてくれてると、何か安心する。人見知りなゆうちゃんが立派に育ってくれて嬉しいよ、俺」
親みたいにしみじみと呟かれて、夕里はむむっとして眉を寄せる。
スクールバッグを肩にかけた夕里が先頭を切りながら、ほぼ成人の背丈に近い2人を連れて合コンの会場へ向かった。
……────。
メルヘンな雰囲気の店内は現実にはいないような、派手な毛色をしたウサギやクマのぬいぐるみが、ソファにちょこんと座ってお茶会を催している。
ビスケットを積み上げた可愛らしい仕切りには、それぞれ女子高生のグループがいて、きゃっきゃっと騒ぎながらスマートフォンのシャッター音を響かせていた。
甘いものが無限に食べられるスイーツビュッフェという、夕里に気を遣った寺沢の采配はよかった。
女子のレベルも高くて、またとない機会をつくってくれた寺沢には感謝している。
夕里と寺沢はエクレアを型どった2人用のソファで肩を寄せ合いながら、女子の人気を総取りしている茅野を離れたところから見ていた。
「なあ……どういうこと? 皆で遊ぼうって感じの集まりじゃなかった?」
「舜が参加したらいつもこうだよ……。だからゆうちゃん、悪いけど今日のところは諦めて」
最初から負け戦だと分かりきっている合コンには、誰も参加しない訳だ。
軽い自己紹介を終えた後、女子は全て茅野が持っていき、質問という名の集中砲火を浴びせられている。
「休みの日は何してるの?」という当たり障りのないものや「今、彼女っている?」、「どんな子がタイプ?」という直球な質問も飛び交っていた。
度重なる男子側の欠員で、女子の人数のほうが2倍以上に多い。
絶対に妥協せず茅野を狙っている女子以外は、だんだんと夕里と寺沢のいるテーブルへとやって来た。
「舜はすごい人気でしょ。うちの学校でも毎日こんな感じ」
さっきまで茅野に首ったけだった彼女達を、寺沢はスマートに向かいの席に誘導する。
「毎日はさすがに盛り過ぎ。舜くん、遊んでそうだしなーんかちょっとやだなぁ」
パーマのかかった茶色の髪にくるくると指を絡ませながら、少し人のはけた茅野を見やる。
遊んでそうなのはそっちじゃないのか、と思うくらい、きっちりと濃いアイメイクをした女子は、テーブルに肘をついて断りもなく夕里の分のキャラメルポップコーンを摘まむ。
「適当に取ってくるけど、食べたいのある?」
「はい、はーい! あたし、苺のタルト食べたい!」
「オッケー。苺のタルトね。……ゆうちゃんは何にする?」
「……え? えーっと……シフォンケーキ。マーブル模様のやつ」
寺沢にぽんぽんと見えないように背中を叩かれる。
上手いこと図られて、2人きりになった。