「放課後に遊ぼう、って感じの集まりにしたから。ガツガツいくと引かれるかもね」
「……そういうもんなの?」
「そういうもんなの」
恋愛初心者の夕里はあっさりと丸め込まれて、招待されたグループトークに参加する。
可愛い動物のアイコンが吹き出しで「よろしくね」と絵文字つきで挨拶しているのを見ると、胸がきゅんきゅんとした。
「何にやにやしてんの。だらしない顔して」
ぐぐっとのしかかられても、夕里はしばらく緩んだ顔を引き締められなかった。
「……だらしない顔って何だよ。嬉しそうって言え」
「はいはい。何か嬉しいことでもあった?」
頬をふにふにと指で掴まれて、夕里は眉間に皺を寄せて怖い顔をつくる。
そんな夕里の表情にも慣れきった茅野は、警戒して毛を逆立てている子犬をあやすようにして、ついでに髪もくしゃくしゃと撫でた。
「……いちいち撫でんな。バカ。下に見られてるみたいでむかつく……」
髪をかき混ぜている手がぴたりと止んで、茅野が夕里の言葉を訂正する。
「可愛がってるつもりなんだけどなぁ。夕里が嫌ならしょうがない」
弁当は夕里の事情など構わずに押しつけてくるのに、噛みつかれるのがよほど怖いのか素直に手を引っ込める。
しかも撫でてきたのはそっちなのに、「夕里がやめろと言ったから」という体で、完結させようとしているのだ。
「ふん。俺がモテないからって下に見てるようだけどなっ……。俺も可愛い彼女つくるんだからな!」
「ゆうちゃんダメだってば」と何故か必死に夕里の宣言を止める寺沢を振り切り、びしっと言いきってやる。
「俺の唯一無二の友人、寺沢に手伝ってもらった。今日の合コンで女の子全員をメロメロにして、番号ゲットしてやる!」
「……は? どういうこと?」
──お、効いてる効いてる。
先月に「付き合ってる」と茅野自身が発言して以来、学年中の女子は血眼になってその相手を探していた。
だが、叩けど追及せど、同性の友達としかつるんでいなくて、真っ直ぐ家に帰るときは実家の手伝いをしている。
それは夕里もこの目で見て知っていることだ。
時間が経つうちに「付き合ってる」発言は実は、告白されるのにうんざりして言い放ったのではないか、という説が流れ始めた。
噂に噂やら願望やら、推測やらが塗り固められて、今、茅野には彼女がいない、というところに落ち着いている。
「……なあ、どういうことだよ。朝日」
「ゆうちゃんにセッティングして欲しい、って頼まれたから! ゆうちゃんは大人の階段を上るんだから、くれぐれも邪魔してやるなよ」
凄んだ茅野の迫力に夕里のみならず、寺沢もびくりとした様子だったけれど、彼女が欲しいと言い出した夕里にヘイトを集めた。
──うわぁ……何でそんなに睨んでるんだ。俺に先越されるかもしれないっていう焦りと僻みなのか。
イケメンですよね、彼女いないんですか。いやいや、遊んでそうとか、どうせ彼女いるんでしょ、とか言われて全くモテないんですよー、みたいなテレビインタビューのシチュエーションがふと頭をよぎった。
視聴率を獲得するための仕込みなのか台本なのかはさておき、純粋でどこか思い込みの激しい夕里は、「顔がよくても案外大変なんだなー」と、敵ながら同情を送っていた。
「まあまあ。茅野も頑張りなよ。男は決して顔じゃないから」
散々に茅野を挑発した後は、最高にすかっとして気持ちよかった。
しかし、放課後になっていざ合コンへと繰り出そうとした矢先に、夕里は同志達の異変に気がつく。
──さっきよりも人が減ってないか……? それとメッセージがいっぱいきてる……。
反比例の盛り上がり方に疑問を抱きつつも、夕里は寺沢に入れてもらったグループトークを開いた。
通知の数はもう100に届きそうで、そのほとんどが未読のままだ。
電話番号交換のためにスマートフォンのバッテリーを残しておこうと、最後の授業は電源を切って鞄の中に入れていたのだ。
女子のメンバーはそのままで男子が減っていて、夕里は心の中でよしよしとにんまりした。
──俺が参加するって聞いて怖じ気づいたか。まあ、しょうがないよなぁ……。
男子のメンバーは蜘蛛の子を散らすようにグループトークを退出し、残る男子は夕里と寺沢と新入りだ。
──な、な、何で茅野が参加してんの……!?
その新入りに向こう側のメンバーは、女子力たっぷりのメッセージやら絵文字やらを茅野に送っている。
せいぜい名前と挨拶を言い合うくらいだったのに、指で何度もスクロールしても追いつかないくらい、この1時間でやり取りをしている。
「ごめんね。ゆうちゃん。ゆうちゃんが行くなら俺も、って舜が聞かなくて……。舜が参加するなら今回は諦めたほうがいいかも……」
「はっ……? 諦めたほうがいい、ってどういうことだよ。いくら茅野がイケメンでも、1人か2人くらい……」
「ゆうちゃん知らないの!? 舜は合コンクラッシャーで有名なんだよ!?」
──合コンクラッシャー……ってなんだ?
聞き慣れない単語にはてなマークを飛ばしていると、噂の合コンクラッシャーが夕里達の元へ合流してきた。
「……そういうもんなの?」
「そういうもんなの」
恋愛初心者の夕里はあっさりと丸め込まれて、招待されたグループトークに参加する。
可愛い動物のアイコンが吹き出しで「よろしくね」と絵文字つきで挨拶しているのを見ると、胸がきゅんきゅんとした。
「何にやにやしてんの。だらしない顔して」
ぐぐっとのしかかられても、夕里はしばらく緩んだ顔を引き締められなかった。
「……だらしない顔って何だよ。嬉しそうって言え」
「はいはい。何か嬉しいことでもあった?」
頬をふにふにと指で掴まれて、夕里は眉間に皺を寄せて怖い顔をつくる。
そんな夕里の表情にも慣れきった茅野は、警戒して毛を逆立てている子犬をあやすようにして、ついでに髪もくしゃくしゃと撫でた。
「……いちいち撫でんな。バカ。下に見られてるみたいでむかつく……」
髪をかき混ぜている手がぴたりと止んで、茅野が夕里の言葉を訂正する。
「可愛がってるつもりなんだけどなぁ。夕里が嫌ならしょうがない」
弁当は夕里の事情など構わずに押しつけてくるのに、噛みつかれるのがよほど怖いのか素直に手を引っ込める。
しかも撫でてきたのはそっちなのに、「夕里がやめろと言ったから」という体で、完結させようとしているのだ。
「ふん。俺がモテないからって下に見てるようだけどなっ……。俺も可愛い彼女つくるんだからな!」
「ゆうちゃんダメだってば」と何故か必死に夕里の宣言を止める寺沢を振り切り、びしっと言いきってやる。
「俺の唯一無二の友人、寺沢に手伝ってもらった。今日の合コンで女の子全員をメロメロにして、番号ゲットしてやる!」
「……は? どういうこと?」
──お、効いてる効いてる。
先月に「付き合ってる」と茅野自身が発言して以来、学年中の女子は血眼になってその相手を探していた。
だが、叩けど追及せど、同性の友達としかつるんでいなくて、真っ直ぐ家に帰るときは実家の手伝いをしている。
それは夕里もこの目で見て知っていることだ。
時間が経つうちに「付き合ってる」発言は実は、告白されるのにうんざりして言い放ったのではないか、という説が流れ始めた。
噂に噂やら願望やら、推測やらが塗り固められて、今、茅野には彼女がいない、というところに落ち着いている。
「……なあ、どういうことだよ。朝日」
「ゆうちゃんにセッティングして欲しい、って頼まれたから! ゆうちゃんは大人の階段を上るんだから、くれぐれも邪魔してやるなよ」
凄んだ茅野の迫力に夕里のみならず、寺沢もびくりとした様子だったけれど、彼女が欲しいと言い出した夕里にヘイトを集めた。
──うわぁ……何でそんなに睨んでるんだ。俺に先越されるかもしれないっていう焦りと僻みなのか。
イケメンですよね、彼女いないんですか。いやいや、遊んでそうとか、どうせ彼女いるんでしょ、とか言われて全くモテないんですよー、みたいなテレビインタビューのシチュエーションがふと頭をよぎった。
視聴率を獲得するための仕込みなのか台本なのかはさておき、純粋でどこか思い込みの激しい夕里は、「顔がよくても案外大変なんだなー」と、敵ながら同情を送っていた。
「まあまあ。茅野も頑張りなよ。男は決して顔じゃないから」
散々に茅野を挑発した後は、最高にすかっとして気持ちよかった。
しかし、放課後になっていざ合コンへと繰り出そうとした矢先に、夕里は同志達の異変に気がつく。
──さっきよりも人が減ってないか……? それとメッセージがいっぱいきてる……。
反比例の盛り上がり方に疑問を抱きつつも、夕里は寺沢に入れてもらったグループトークを開いた。
通知の数はもう100に届きそうで、そのほとんどが未読のままだ。
電話番号交換のためにスマートフォンのバッテリーを残しておこうと、最後の授業は電源を切って鞄の中に入れていたのだ。
女子のメンバーはそのままで男子が減っていて、夕里は心の中でよしよしとにんまりした。
──俺が参加するって聞いて怖じ気づいたか。まあ、しょうがないよなぁ……。
男子のメンバーは蜘蛛の子を散らすようにグループトークを退出し、残る男子は夕里と寺沢と新入りだ。
──な、な、何で茅野が参加してんの……!?
その新入りに向こう側のメンバーは、女子力たっぷりのメッセージやら絵文字やらを茅野に送っている。
せいぜい名前と挨拶を言い合うくらいだったのに、指で何度もスクロールしても追いつかないくらい、この1時間でやり取りをしている。
「ごめんね。ゆうちゃん。ゆうちゃんが行くなら俺も、って舜が聞かなくて……。舜が参加するなら今回は諦めたほうがいいかも……」
「はっ……? 諦めたほうがいい、ってどういうことだよ。いくら茅野がイケメンでも、1人か2人くらい……」
「ゆうちゃん知らないの!? 舜は合コンクラッシャーで有名なんだよ!?」
──合コンクラッシャー……ってなんだ?
聞き慣れない単語にはてなマークを飛ばしていると、噂の合コンクラッシャーが夕里達の元へ合流してきた。