2016年4月5日
フランスのある森
静けさが響き渡り、背が高く、白くしわのかかったようにつかれたような見た目の木、ヨーロッパハコヤナギの森だ。
狐や兎がひっそりと穴倉の中に
狐の親子はまるまるとマフラーのように丸め込んで母ぎつねはまだこっくりと眠る子ぎつねの耳をちょいと舐めると子ぎつねは目を覚まして次は母ぎつねのあごの下をなめるとそこに兄弟ぎつねが入り込んで舐めあいっこがはじまる。そっぽかされた母ぎつねは兄弟でバカやってるそばで寝始める。
すると、子ぎつねたちに穴倉の上を歩く歩く山オオカミの足音が聞こえれば泣く子も黙るようにその場で突っ伏した。
山オオカミは兎の飛び跳ねる足跡の具合をみて、すぐ下にきつねがいたとまでは分からなかったが、オオカミにとってはなんとなく兎よりも大きな生き物の巣が近くにあることは知っていた。だがオオカミは誇り高かった。最初から兎が獲物。迷わず兎の足跡を、鼻と目でくんくん、ぎょろぎょろ、と一度狙った獲物を追って足をいそくさと坂をかけあがる。すると、地面に鼻を突き付けていたやまおおかみは変わったように、首をのばし、山オオカミが丘からこちらへと睨む。
山オオカミごときの目ではみえないほど遠い。
だが山オオカミごときには全てがみえていたのだろう。
はるか…
そのはるか…西に。
そのはるか西を目指すとベルギーの、ソンムという土地にくる。
大地の土は煙たいからか白くにごったような色でひどくぬかりこんで小麦と赤いヒナゲシの混じった泥となっていた。それに付け加え、ぬかるみすぎて地面を見降ろせば軍靴の跡でいっぱいだ。
この軍靴は、東に向かおうとしていた。が、途中でいろんな方角に歩き出したり、しまいにはもはや靴の跡とは言えないようなめちゃくちゃの跡もある。砲弾が落ちてクレーターに泥水がたれ流れ、一歩間違えればその名の通り泥沼。
そして、東西には、いくつもの軍服を着た、女子生徒がしばらくのたうちまわったような跡を残してくたばった、ほどよく散らばめられた死体のカーペットが敷かれていた。そして、西に向かうと腕にはイギリス国旗のワッペンが付いた、つばのあるブロディヘルメットをはめた、女子生徒兵で溢れ、東に向かうと腕には旧ドイツ帝国の国旗のワッペンと、頭を半球包み込むようなシュタールヘルムをはめた女子生徒で溢あふれる。
地面の色そっくりな、灰色の軍服をまとい、小柄なまだ16歳の女子生徒が縮こまって死んでみればそれはもう地面と間違えて踏みつけてしまう。
すると、戦場をぐるりと廻る霧の東の向こうから銃口がピカリと雷のように光ると遠くからあの特徴的な、ゴム板を叩くような鈍い銃声がいくらか響く。
ドイツの機関銃はやれ暇つぶしに戦場に置いてきた死体を撃つ。
逆に次ははるか西の霧の中から同じくゴム版を叩くような鈍いイギリスの銃声が響く。
その中にどちらかの狙撃手も参加したらしく、ただ一発ライフルの弾を横穴から吐き出し、地面の泥に落ちる。
そうやって砂でもかけあうような撃ち合いをしているとドイツ側の塹壕の岸に、砲撃による鉄と泥の噴水が、ドイツ女子生徒兵の死体を押し上げ、もといた塹壕を墓穴代わりに突き落とした。
それを皮切りにドイツの塹壕は目を覚まし、女子生徒兵がうろうろ自分の持ち場へと移動する。森は騒ぎ出し、砲撃は雨音のように振り凌ぐ。だがその中に一人、ライフルを抱えて段差に座る、おびえ切ったドイツ兵の少女を指揮官は抑揚がなく、威圧を張っただけの声で少女の腕をつかんだ。
指揮官「サシャ、さっさと梯子の前に立て。いますぐ」
と、少女を梯子の前にもってくるとどこかへ行く。
井垣「サシャさん、」
少女は同じ梯子を前にする井垣の目を見る。
井垣の目配せに気づくと少女は井垣を先に行かせた。井垣は先に梯子を上り、塹壕から頭を出した。するとその瞬間、一瞬に銃弾がドイツ兵を撃ち抜いた。塹壕の地面に倒れる井垣を見て、少女はすぐさま井垣の肩を揺さぶる。そこにさっきの指揮官が笛をくわえながら戻ってくると笛をとって少女の軍服の襟を引っ張る。
サシャ「井垣さん！？井垣さん！？」
指揮官「おいさっさと行け。なにしてる。行けよ」
自分の立場が大切な指揮官は、少女を塹壕から追い出すように梯子に押し付ける。
少女は考えることをやめて、塹壕から出た。
サシャ「…！？うぅっ…！？」
モタモタしてたら撃たれる。
そう思って血の気が引いた少女は早く塹壕を出ようと焦り、足を梯子にひっかけ、転びかけて、大きく体制を崩した瞬間頭の上を流れ弾がかすった。それを見て少女は目の前の丸木の影に飛び込むように倒れる。すると、何者かが少女の足首を掴む。
ニーナ「みっちゃん、みっちゃん、たすけ、お願い」
後ろからニーナの声がしたのでうつぶせのまま体を180度回転させる。
サシャ「ニーナ…？ニーナ…？」
少女は声をかけながら振り返るとニーナと顔を合わせる。
ニーナは少しでも少女に近寄ろうと体をたぐり寄せた。
ニーナ「サシャ、サ…」
サシャ「うぅっ…」
だがそのときニーナは力を込めるばかりに体を起こした途端、背後から飛んできた弾で死んだニーナと対面する。
横たわるニーナを見てサシャは伏せたまま
また180度回転して丸太にもう一度しっかり張り付くとそれの上に照準器のついてないGewere98、ドイツ式狙撃銃を置いて、引き金を引く。
だが薬室に弾が入ってなかった、薬室に弾が入ってなければ引き金を引いても銃弾は発射されないのだ。
それに気づいた少女はボルトを引いて、薬室に弾を入れたその時、丸太の前の地面が砲弾で鉄と土のが吹き上げて、土塊つちくれは散って少女の体に降り注いだ。それに怯え、丸太に一瞬隠れた少女は降りかかってきたのはただの土塊だったことが分かれば再び体制を整えて照準を覗く。
一発、排莢してまた一発と引き金を引くたびに顔に苦痛がにじみ出る。
それを繰り返しているうちに引き金が引けなくなった、固い、故障してしまったのだ。
異常に気付いた少女はボルトを引いたりとライフルをいじるそこに、1秒もたたず前まで最前線を突き抜けようとした兵士の抜け殻が、少女のとなりに死体としてなだれ込んだ。本能と経験でそれがだれかの死体であると気づくとまたおびえるように視界に入れる前に顔をそらす。
使い物にならなくなったライフルを手放すと少女は腰にぶら下げたショベルを、カバーから取り外し、片手に持つ。
少女は悲痛と苦しみ、怒り、なによりも、恐怖が行き交う雄たけびを上げながら丸太から身を出して、走り出す。
サシャ「ああああああああああああああああああああああああ！！！！」
殴り合いや撃ち合いの鋼鉄の嵐となった丘に少女は駆け、目の前のイギリス兵の少女の胸をショベルで切り裂いた。
「女子校一時限目、第一次世界大戦」の物語は
100年前の出来事をもとにしている。
6千万人以上が「すべての戦争を終わらせるための戦争」に従軍した。
しかし、それは何一つとして終わらせることはなかった。
それは、世界のあり方を永遠に変えてしまったのである。
無邪気な若兵、戦争に疲れた老兵、色んな人がこの人類が直面した大量虐殺を目にした時、
後世に託してはならないと、「すべての戦争を終わらせる」と誓い、願い、戦った。
…そして全てを焼き払い、従軍した全ての兵士が眠り、かの大地に再び草が芽吹いた時、歴史はもう一度息を吹き返す。
現代の子供達を標的に。
遺体の積まれた列車の車庫の重い扉を開くと、途端に激臭が漂い、思わずセーラー服を着る中学生のカルナは嗚咽おえつを漏らす。
カルナ「おえ…最悪…」
運搬列車は丸三日動きっぱなしで数地点の戦場を渡っていた。
一気に一地点で焼いた方が効率的といえど、丸三日も放置されたドイツ兵の遺体は一番下の古い遺体から一番新しい遺体まで、腐敗のありとあらゆる過程を晒していた。前にあった遺体を取ると列車の中になるべく長く滞在しないように遺体を雑に地面に並べると戦場の残骸ざんがいを担当していたサナエのもとに行く。
湿った泥で滑らないよう慎重に丘を登るとすぐそこに荷物とともに汚さないように敷いたシーツの上に山積みとなった鉄プレートの認識票ドッグタグを見る。
カルナ「なんだ、もう終わらせてたんだ」
カルナは丘を越えるとすぐそこの塹壕に降りて戦場の残した惨状さんじょうを眺める。すると、複数人、後ろから泥を軍靴で踏む音が聞こえる。
看護兵「ちょっとどいてどいて」
カルナはすっと左によって担架に前を行かせる。シスターや、看護兵が息のある生徒兵を担架たんかに乗せてほかの兵科の者はドッグタグの回収や伝令、棺桶かんおけや遺体の運搬、遺留品の接収などにいそしんでいた。どの兵科でも遺体の最期の顔を拝おがむため、誰もが灰色の顔をする。すると、奥の集団墓地の近くで遺体から軍服を脱がす作業をするサナエの姿が見えた。カルナはサナエのそばに駆け寄ると一緒に軍服を脱がし始める。
カルナ「サナエ～」
サナエ「あ、カルナ」
カルナ「なんかタグ集まってたけど」
サナエ「タグ集めてから服脱がしてだって」
カルナ「え～？一緒にやればいいのに」
サナエ「だよね」
軍服を全員脱がし終えたら次は黒色の棺桶に遺体をなるべく丁寧な姿勢で押し込むとすでに別のクラスの分隊が掘った縦6ｍ、横10ｍ、深さ5ｍで掘った集団墓地に次々と降ろす。そして一面を棺桶で敷き詰めた後、死体が虫に食われないよう、白い粉末のような、消石灰しょうせっかいを黒を白に塗りつぶすようにふりかける。
そして埋めた後、ドイツ女子兵は軽く祈り、日本女子兵はきっちり十秒、黙祷を捧げるのだ。この百数十人を一か所に缶詰のように敷き詰めた葬式はとても急がれたものとなっていた。そのため両者が同じタイミングで違う流派の葬式をするため、時折目をつぶる先にいるのが仏か荊かんむりの外国人の男なのか、混同する。そしてその上この葬式には対象がいない。このクラス、分隊に顔見知りがいるのなら別だろう。だが、死を急ぐ女子高生の名前をわざわざ知る理由はなかった。形だけの葬式。名誉ある死を遂げても弔われることすらない。
十秒沈黙したあと中学生のドイツ兵、日本兵たちはそれぞれ任務に戻った。流されるようにカルナは接収したぼろぼろの軍服が積まれた山に手をかける。おおきな白い、麻袋のようにざらざらとしたふろしきにぎゅうぎゅうに詰めるとゴミ袋のように四端を結ぶ。小型の熊ほどの大きさになった袋は見かけによらず、女子中学生でも片手にそれぞれ1個ずつ持てるほど軽かった。それを二つずつ、両手に持ちながら軍用トラックの荷台に積んでいく。袋は全部で11個だった。両手に一つずつ持ったとしても最低５往復する。そして戦場なんて足元がわからない場所で荷運びとなると普通よりも時間がかかる。にじみ出てくるんだ。最初の袋を見るたびに、赤く変色していった。一部から、拡散するように。袋は結構ひどい扱いをしてもよいように固く、きつく結ぶ。それゆえか中で血液が、水でぬれた雑巾をしぼるように、軍服から血液だけを搾り取って、白い布に赤を付け足した。それでは、なぜ、白は赤に変色していったのだろうか。カルナは最後と思われる荷物を積んだ後、荷台に積んでないものを確認する。
カルナ「認識票、遺留品、全部ある。よし」
運転席に座るサナエに合図をだしてカルナは荷台に乗って遺留品たちと相乗りする。
それを見計らいサナエは発進し、砲弾によってできたクレーターを避けながら割と整頓された小道を走る。しばらく走っていると何を思ったかカルナは遺留品を雑にどけて、サナエの真後ろとなる座席に移動する。
それに気づいたサナエは運転片手にしゃべりかける。
サナエ「あぶないよ」
カルナ「いや、さ…」
カルナは何か話したげだった。
サナエ「なに？」
カルナ「いや、」
サナエ「そっか」
サナエは追及しなかった。
サナエ「すぐそこだから」
カルナ「うん…」
何気ないそのサナエの言葉は、カルナにとっては「時間がない」と言われたようだった。
空想のサナエの後押しに押されてカルナは口を開く。
カルナ「…うちら、このままかな」
サナエはハンドルを握りしめカルナに問いかける。
サナエ「なんでそう思うの」
カルナはサナエから負の感情を感じてぎこちなく話を続ける。
カルナ「…か、この先輩みたいに高校生になるか、ほら、中3だし？もう」
カルナは軍服の詰められた袋の山を横目に、次はサナエが話し出す。
サナエ「かもしれない」
カルナはあいまいなサナエの回答に釣られて荷台の仕切りを杖代わりに立ち上がる。
カルナ「どっち…」
サナエ「…」
カルナ「…」
サナエは答えなかった。カルナはサナエの背中を見ながら沈黙の圧をかける。すると車を停車させるとサナエは圧に負けてか、ようやく口を開いた。
サナエ「もう着いたよ。もうすぐそこって言ったじゃん」
カルナ「…カート、とってくる」
サナエ「珍しいね、洗うの。めんどくさがってたのに」
カルナはすぐそばのカートに袋を山のように積むとカートを押して目的地の製糸場に入る。
この製糸場の廊下は非常に長く、同時にうす暗く湿っていた。一定間隔に電球がぶら下がり、廊下の最端を照らさない、そのつたない光は水っ気のある錆びた床に広がる浅すぎる水たまりをつたなく反射させた。
ただ水たまりを踏む音は砲撃のように単調なリズムであり、同じ音を繰り返した。戦争の音は単調である。
ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、と。カルナは思わずスピードを上げる。カートを押して、走り出すとどんどん音は激しくなり、とうとうしぶきも上がる。自分で自分の首を絞めているのに気づかずカルナはその単調な音から逃げ出していた。ただでさえ凸凹とした床を勢いよく駆けるものだからカートは転倒し、地面に袋がなだれ込んだ。
カルナは我に返り、なだれた袋をただ見下ろした。するとそこに同じクラスの女子中学生がやってきて何も言わず、むしろ何も思ってないようなうつろとした表情でただ地面に落ちた軍服が詰められた袋を洗浄場に持っていく。カルナは持てるだけの袋を拾ってその女子中学生のあとを追う。やはり、あの水浸しはこの洗浄場からだった。こちらの方が水深も深い。統計的な水たまりの中では浅く、足の甲を全体覆えないほどだった。だが誰もそれをなんとかしようと思った者はいなかった。次々に軍服がやってくるもので。血と染みついた汗や体臭を洗わなければならなかった。
大きな釜かまに洗剤はたっぷりの水が、白くにごるまでいれ、軍服の見積もり量は白く濁った水面から多少軍服がはみ出てるくらいがベスト。そこで色落ちしないよう20分、棒で混ぜたのちすぐ出して乾かせる。
中学生専用食堂でスマホ片手にまくろなるどバーガーを食べながら暇をつぶしていたサナエのもとにカルナがやってくる。
カルナ「乾いたよ」
サナエ「うわあ、長かったねえ…」
サナエは背伸びしながらカルナの後を追う。
乾いたらカートを二種類用意する。破れたりなどの破損しているものと比較的きれいなものに。比較的きれいなものはすぐ送り、あとから破損しているものは大量のミシンがずらりと並ぶミシン場に運ばれる。といっても頭を即死させたり、下半身の、スカートより下だけが傷つかない限り軍服のどこかしらが傷づくので滅多にそんなことはない。それにその過程でどこかしら気づかずに傷ついているもの。片方のカートは空の日の方が多かった。
カートをミシン場に運ぶと担当の中学生にそれぞれに数枚ずつ渡したのちカルナ自身も数枚持って空いているミシンに座る。そして傷を発見次第縫っていく。そしてカルナは一枚目のコートのタグを見る。
サナエ「なんでタグ残すの？」
カルナ「え、だって」
休み時間、カルナは屋上で遠くに見える線路を眺めながら逆に柵によりかかるサナエの質問に答える。
カルナ「伝えたいから。何も言われないらしいよ」
サナエ「伝えたいって、誰に？」
カルナ「…どっちも」
カルナはサナエの質問に対し、答えになってない返答をする。当然、サナエは首をかしげるがカルナの見る景色を見てピンと来たようだ。
カルナ「あ、きた」
サナエ「もしかして、あれ？」
カルナ「かもね」
サナエ「ふうん」
カルナ「なんでこうなったんだろうね、だまされたのかな。こうなるはずじゃなかったのに」
遠くの線路に、汽車が橋を渡った。
汽車の窓の一つが開かれ、中からオレンジ髪のワンサイドアップ髪の女子高生が身を乗り出して汽車の先を見る。
ミナミ「わあ、ここが、神世界…！」
わたしの名前はアリサカ・ミナミ。今年から晴れて女子高生です！
ゾフィア「わくわくするのも分かるけどまず危ないから」
ミナミ「ああ…」
このぼさぼさな金髪で緑色の瞳が特徴の子は、ゾフィア・シュワルド。通称ゾフィア！
ちょっとダウナーな子でわたしの中学生からの大親友です！ゾフィアは身を乗り出して窓に座って風を感じる私を座席におろします。なんかゾフィアがスマホに釘付けですね、何見てるんでしょう？スマホぶんどってみちゃえ！
ミナミ「なーにみてるんだYO！」
ゾフィア「あ、ちょっと…」
ミナミ「いーいじゃーん！ってこれ、わたしたちの新制服！？」
ゾフィアはわたしからスマホを奪い返す
ゾフィア「うん。なんか軍服っぽいけどスカートでかっこかわいくて」
ミナミ「こんなの合法で着れるの！？やっば、まじ楽しみ！」
ゾフィア「だね」
そうこんなしてると警笛が鳴りました。到着の合図です！
ミナミ「やっとだあ～！へとへとだよー」
ゾフィア「座ってただけでしょっと」
ゾフィアはわくわくを隠してなんかクールに荷物を降ろしてます、高校生デビューってやつでしょうか！
ゾフィア「なににやにやしてんの、降りるよ」
ミナミ「あ、そうだった！」
しまった！列を待っていたはずが、もう全員外に出てしまっていたではないか！
わたしはすべてが始まるような、光のさす出入口に向かって走り出す
ゾフィア「ねえちょっと！」
ミナミ「ゾフィアはやくはやく！」
わたしは迷うことなく列車の外に飛び出した。
外に出て真っ先に目に入ったのは…ドイツにあるはずのブランデンブルク門そして歴史ある街並み…わたしの視界いっぱいにわくわくと未来が詰まっている！本当なんだ！神様の門の中には地球をコピーした世界だって！！
ゾフィア「ねえ…いきなり走らないでよ…って、これって…！？」
ミナミ「そうだよ！…おはよう！！ドイツ
！！」
ゾフィア「まじか、神様細かいなあ、ここ地球ではないのに色んなの売ってる、なんかあっちの店でゴリラのレクイエムとかボッキ―…てか、沖縄にしか売られてないベニテングタケの森の限定フレーバーだって！ちんすこう味…なんでここにあるんだろう」
そんな冷ややかなゾフィアの対応にわたしはぷくーっと頬を膨らませる。
ミナミ「ノッてよ…」
ゾフィア「他人のフリしないだけ感謝しな」
ゾフィアは肩をポンポンと叩いてそのままわたしを置いて改札を通る。
ミナミ「待って待って…ぐはぁっ」
そこでわたしはゾフィアの後を追おうと改札を走り抜けようとしましたが改札扉の強烈なブローをおなかに食らって改札扉に干されたままゾフィアの背中に向かって手を伸ばして…
ミナミ「ま、まっでぇ～～～！」
ゾフィアに置いて行かれたその時、改札が開いてわたしは地面に膝をつけたのです。
？？？「なにしてんだお前」
すこし大人っぽい、低めの女の人の声が聞こえ、振り返るとそこには、
そこには銀髪の長髪の褐色肌、そして豊満な体つき、そして鋭い目をした女の人がいたのです。
豊満な体つき…私はあまりもの威圧的な風格に身動き一つとれなかった。豊満な体つき…豊満な体つき…
ミナミ「はわ、はわ、はわ」
？？？「おん？」
ゾフィア「ごめん…って何この状況」
そこに、救世主ゾフィアがやってきたのです！わたしは助けを求めるべく、救世主の名を叫びました。
ミナミ「エリ…」
その時です。またあの改札のフラップドアとかいうやつが閉まり、わたしのデコにストレートを入れました。
KOです…
ミナミ「う、うぅ…うぅ…」
するとまたおねえさんが電子決済で改札を開けてくれた。その隙を逃がさず私は超早歩きで逃げ出す。
ミナミ「あ、ありがとうございましたあああああああ！！！」
ラーメン屋さんにも負けないくらいの声量で感謝しながら、そのあとをゾフィアも追う。
？？？「いや、あの、980円…」
しばらく走った後、あまりにも疲れたのでAIタクシーを止めて寮まで乗る。
ミナミ「ひえー、こわかったー」
ゾフィア「一番怖いのあたしだけどな（請求で…）」
タクシー「目的地をお願いします」
ミナミ「たしか、日英第369寮で！」
タクシーが発進すると息をついて、ゾフィアはクーラーをつける。
ミナミ「うわあ、なんか買っとけばよかったねえ…」
ゾフィア（さっきの人が払ってくれたことにはノータッチかよ…）
ゾフィア「あ、でも寮の一階にいろんな店あるらしいよ」
ミナミ「まじ！？なにあるんだろう！？」
ゾフィアはスマホを取り出し、検索する。
ゾフィア「コティバ、バーゲンダッシュ、ミセスドーナッツ、マクロナルド、」
ミナミ「ありすぎじゃない？」
ゾフィア「そりゃモールと一体型だし」
ミナミ「何それすご。そんなのあるの」
タクシー「到着しました。1480円です」
料金を支払ったのちタクシーを降りて寮に入る。
ミナミ「自動ドアだ…」
ゾフィア「どこにもあるよ」
入ってすぐ、もうすでに誰も並んでない受付に座る女子中学生の店員に駆け寄る。
受付「あ、新入生の方ですか？学籍番号とお名前をおねがいします」
ミナミ「はーい」
書き終えると受付は何かをカウンターの下から取り出す。
受付「405号室と406号室。キーと、制服になります。両親の誇りですね」
ゾフィアが先に行ったあと、わたしはつい制服を見てにやにやとする。
受付「あの、どうかされましたか？」
ミナミ「いいえ、少し楽しみで…」
そう、ゾフィアの後を追おうとしたその時でした。
あれ？
受付に戻って制服を置く。
ミナミ「これ、別の人のですよ」
受付「ああ、きっとサイズが小さすぎたのでしょう。はい、こちらを」
受付はタグを破ってミナミに渡す。ミナミが去った後、カウンターの床の下にタグが落下する。
タグには「サシャ･アルブレヒト」と記されていた。
フランスのある森
静けさが響き渡り、背が高く、白くしわのかかったようにつかれたような見た目の木、ヨーロッパハコヤナギの森だ。
狐や兎がひっそりと穴倉の中に
狐の親子はまるまるとマフラーのように丸め込んで母ぎつねはまだこっくりと眠る子ぎつねの耳をちょいと舐めると子ぎつねは目を覚まして次は母ぎつねのあごの下をなめるとそこに兄弟ぎつねが入り込んで舐めあいっこがはじまる。そっぽかされた母ぎつねは兄弟でバカやってるそばで寝始める。
すると、子ぎつねたちに穴倉の上を歩く歩く山オオカミの足音が聞こえれば泣く子も黙るようにその場で突っ伏した。
山オオカミは兎の飛び跳ねる足跡の具合をみて、すぐ下にきつねがいたとまでは分からなかったが、オオカミにとってはなんとなく兎よりも大きな生き物の巣が近くにあることは知っていた。だがオオカミは誇り高かった。最初から兎が獲物。迷わず兎の足跡を、鼻と目でくんくん、ぎょろぎょろ、と一度狙った獲物を追って足をいそくさと坂をかけあがる。すると、地面に鼻を突き付けていたやまおおかみは変わったように、首をのばし、山オオカミが丘からこちらへと睨む。
山オオカミごときの目ではみえないほど遠い。
だが山オオカミごときには全てがみえていたのだろう。
はるか…
そのはるか…西に。
そのはるか西を目指すとベルギーの、ソンムという土地にくる。
大地の土は煙たいからか白くにごったような色でひどくぬかりこんで小麦と赤いヒナゲシの混じった泥となっていた。それに付け加え、ぬかるみすぎて地面を見降ろせば軍靴の跡でいっぱいだ。
この軍靴は、東に向かおうとしていた。が、途中でいろんな方角に歩き出したり、しまいにはもはや靴の跡とは言えないようなめちゃくちゃの跡もある。砲弾が落ちてクレーターに泥水がたれ流れ、一歩間違えればその名の通り泥沼。
そして、東西には、いくつもの軍服を着た、女子生徒がしばらくのたうちまわったような跡を残してくたばった、ほどよく散らばめられた死体のカーペットが敷かれていた。そして、西に向かうと腕にはイギリス国旗のワッペンが付いた、つばのあるブロディヘルメットをはめた、女子生徒兵で溢れ、東に向かうと腕には旧ドイツ帝国の国旗のワッペンと、頭を半球包み込むようなシュタールヘルムをはめた女子生徒で溢あふれる。
地面の色そっくりな、灰色の軍服をまとい、小柄なまだ16歳の女子生徒が縮こまって死んでみればそれはもう地面と間違えて踏みつけてしまう。
すると、戦場をぐるりと廻る霧の東の向こうから銃口がピカリと雷のように光ると遠くからあの特徴的な、ゴム板を叩くような鈍い銃声がいくらか響く。
ドイツの機関銃はやれ暇つぶしに戦場に置いてきた死体を撃つ。
逆に次ははるか西の霧の中から同じくゴム版を叩くような鈍いイギリスの銃声が響く。
その中にどちらかの狙撃手も参加したらしく、ただ一発ライフルの弾を横穴から吐き出し、地面の泥に落ちる。
そうやって砂でもかけあうような撃ち合いをしているとドイツ側の塹壕の岸に、砲撃による鉄と泥の噴水が、ドイツ女子生徒兵の死体を押し上げ、もといた塹壕を墓穴代わりに突き落とした。
それを皮切りにドイツの塹壕は目を覚まし、女子生徒兵がうろうろ自分の持ち場へと移動する。森は騒ぎ出し、砲撃は雨音のように振り凌ぐ。だがその中に一人、ライフルを抱えて段差に座る、おびえ切ったドイツ兵の少女を指揮官は抑揚がなく、威圧を張っただけの声で少女の腕をつかんだ。
指揮官「サシャ、さっさと梯子の前に立て。いますぐ」
と、少女を梯子の前にもってくるとどこかへ行く。
井垣「サシャさん、」
少女は同じ梯子を前にする井垣の目を見る。
井垣の目配せに気づくと少女は井垣を先に行かせた。井垣は先に梯子を上り、塹壕から頭を出した。するとその瞬間、一瞬に銃弾がドイツ兵を撃ち抜いた。塹壕の地面に倒れる井垣を見て、少女はすぐさま井垣の肩を揺さぶる。そこにさっきの指揮官が笛をくわえながら戻ってくると笛をとって少女の軍服の襟を引っ張る。
サシャ「井垣さん！？井垣さん！？」
指揮官「おいさっさと行け。なにしてる。行けよ」
自分の立場が大切な指揮官は、少女を塹壕から追い出すように梯子に押し付ける。
少女は考えることをやめて、塹壕から出た。
サシャ「…！？うぅっ…！？」
モタモタしてたら撃たれる。
そう思って血の気が引いた少女は早く塹壕を出ようと焦り、足を梯子にひっかけ、転びかけて、大きく体制を崩した瞬間頭の上を流れ弾がかすった。それを見て少女は目の前の丸木の影に飛び込むように倒れる。すると、何者かが少女の足首を掴む。
ニーナ「みっちゃん、みっちゃん、たすけ、お願い」
後ろからニーナの声がしたのでうつぶせのまま体を180度回転させる。
サシャ「ニーナ…？ニーナ…？」
少女は声をかけながら振り返るとニーナと顔を合わせる。
ニーナは少しでも少女に近寄ろうと体をたぐり寄せた。
ニーナ「サシャ、サ…」
サシャ「うぅっ…」
だがそのときニーナは力を込めるばかりに体を起こした途端、背後から飛んできた弾で死んだニーナと対面する。
横たわるニーナを見てサシャは伏せたまま
また180度回転して丸太にもう一度しっかり張り付くとそれの上に照準器のついてないGewere98、ドイツ式狙撃銃を置いて、引き金を引く。
だが薬室に弾が入ってなかった、薬室に弾が入ってなければ引き金を引いても銃弾は発射されないのだ。
それに気づいた少女はボルトを引いて、薬室に弾を入れたその時、丸太の前の地面が砲弾で鉄と土のが吹き上げて、土塊つちくれは散って少女の体に降り注いだ。それに怯え、丸太に一瞬隠れた少女は降りかかってきたのはただの土塊だったことが分かれば再び体制を整えて照準を覗く。
一発、排莢してまた一発と引き金を引くたびに顔に苦痛がにじみ出る。
それを繰り返しているうちに引き金が引けなくなった、固い、故障してしまったのだ。
異常に気付いた少女はボルトを引いたりとライフルをいじるそこに、1秒もたたず前まで最前線を突き抜けようとした兵士の抜け殻が、少女のとなりに死体としてなだれ込んだ。本能と経験でそれがだれかの死体であると気づくとまたおびえるように視界に入れる前に顔をそらす。
使い物にならなくなったライフルを手放すと少女は腰にぶら下げたショベルを、カバーから取り外し、片手に持つ。
少女は悲痛と苦しみ、怒り、なによりも、恐怖が行き交う雄たけびを上げながら丸太から身を出して、走り出す。
サシャ「ああああああああああああああああああああああああ！！！！」
殴り合いや撃ち合いの鋼鉄の嵐となった丘に少女は駆け、目の前のイギリス兵の少女の胸をショベルで切り裂いた。
「女子校一時限目、第一次世界大戦」の物語は
100年前の出来事をもとにしている。
6千万人以上が「すべての戦争を終わらせるための戦争」に従軍した。
しかし、それは何一つとして終わらせることはなかった。
それは、世界のあり方を永遠に変えてしまったのである。
無邪気な若兵、戦争に疲れた老兵、色んな人がこの人類が直面した大量虐殺を目にした時、
後世に託してはならないと、「すべての戦争を終わらせる」と誓い、願い、戦った。
…そして全てを焼き払い、従軍した全ての兵士が眠り、かの大地に再び草が芽吹いた時、歴史はもう一度息を吹き返す。
現代の子供達を標的に。
遺体の積まれた列車の車庫の重い扉を開くと、途端に激臭が漂い、思わずセーラー服を着る中学生のカルナは嗚咽おえつを漏らす。
カルナ「おえ…最悪…」
運搬列車は丸三日動きっぱなしで数地点の戦場を渡っていた。
一気に一地点で焼いた方が効率的といえど、丸三日も放置されたドイツ兵の遺体は一番下の古い遺体から一番新しい遺体まで、腐敗のありとあらゆる過程を晒していた。前にあった遺体を取ると列車の中になるべく長く滞在しないように遺体を雑に地面に並べると戦場の残骸ざんがいを担当していたサナエのもとに行く。
湿った泥で滑らないよう慎重に丘を登るとすぐそこに荷物とともに汚さないように敷いたシーツの上に山積みとなった鉄プレートの認識票ドッグタグを見る。
カルナ「なんだ、もう終わらせてたんだ」
カルナは丘を越えるとすぐそこの塹壕に降りて戦場の残した惨状さんじょうを眺める。すると、複数人、後ろから泥を軍靴で踏む音が聞こえる。
看護兵「ちょっとどいてどいて」
カルナはすっと左によって担架に前を行かせる。シスターや、看護兵が息のある生徒兵を担架たんかに乗せてほかの兵科の者はドッグタグの回収や伝令、棺桶かんおけや遺体の運搬、遺留品の接収などにいそしんでいた。どの兵科でも遺体の最期の顔を拝おがむため、誰もが灰色の顔をする。すると、奥の集団墓地の近くで遺体から軍服を脱がす作業をするサナエの姿が見えた。カルナはサナエのそばに駆け寄ると一緒に軍服を脱がし始める。
カルナ「サナエ～」
サナエ「あ、カルナ」
カルナ「なんかタグ集まってたけど」
サナエ「タグ集めてから服脱がしてだって」
カルナ「え～？一緒にやればいいのに」
サナエ「だよね」
軍服を全員脱がし終えたら次は黒色の棺桶に遺体をなるべく丁寧な姿勢で押し込むとすでに別のクラスの分隊が掘った縦6ｍ、横10ｍ、深さ5ｍで掘った集団墓地に次々と降ろす。そして一面を棺桶で敷き詰めた後、死体が虫に食われないよう、白い粉末のような、消石灰しょうせっかいを黒を白に塗りつぶすようにふりかける。
そして埋めた後、ドイツ女子兵は軽く祈り、日本女子兵はきっちり十秒、黙祷を捧げるのだ。この百数十人を一か所に缶詰のように敷き詰めた葬式はとても急がれたものとなっていた。そのため両者が同じタイミングで違う流派の葬式をするため、時折目をつぶる先にいるのが仏か荊かんむりの外国人の男なのか、混同する。そしてその上この葬式には対象がいない。このクラス、分隊に顔見知りがいるのなら別だろう。だが、死を急ぐ女子高生の名前をわざわざ知る理由はなかった。形だけの葬式。名誉ある死を遂げても弔われることすらない。
十秒沈黙したあと中学生のドイツ兵、日本兵たちはそれぞれ任務に戻った。流されるようにカルナは接収したぼろぼろの軍服が積まれた山に手をかける。おおきな白い、麻袋のようにざらざらとしたふろしきにぎゅうぎゅうに詰めるとゴミ袋のように四端を結ぶ。小型の熊ほどの大きさになった袋は見かけによらず、女子中学生でも片手にそれぞれ1個ずつ持てるほど軽かった。それを二つずつ、両手に持ちながら軍用トラックの荷台に積んでいく。袋は全部で11個だった。両手に一つずつ持ったとしても最低５往復する。そして戦場なんて足元がわからない場所で荷運びとなると普通よりも時間がかかる。にじみ出てくるんだ。最初の袋を見るたびに、赤く変色していった。一部から、拡散するように。袋は結構ひどい扱いをしてもよいように固く、きつく結ぶ。それゆえか中で血液が、水でぬれた雑巾をしぼるように、軍服から血液だけを搾り取って、白い布に赤を付け足した。それでは、なぜ、白は赤に変色していったのだろうか。カルナは最後と思われる荷物を積んだ後、荷台に積んでないものを確認する。
カルナ「認識票、遺留品、全部ある。よし」
運転席に座るサナエに合図をだしてカルナは荷台に乗って遺留品たちと相乗りする。
それを見計らいサナエは発進し、砲弾によってできたクレーターを避けながら割と整頓された小道を走る。しばらく走っていると何を思ったかカルナは遺留品を雑にどけて、サナエの真後ろとなる座席に移動する。
それに気づいたサナエは運転片手にしゃべりかける。
サナエ「あぶないよ」
カルナ「いや、さ…」
カルナは何か話したげだった。
サナエ「なに？」
カルナ「いや、」
サナエ「そっか」
サナエは追及しなかった。
サナエ「すぐそこだから」
カルナ「うん…」
何気ないそのサナエの言葉は、カルナにとっては「時間がない」と言われたようだった。
空想のサナエの後押しに押されてカルナは口を開く。
カルナ「…うちら、このままかな」
サナエはハンドルを握りしめカルナに問いかける。
サナエ「なんでそう思うの」
カルナはサナエから負の感情を感じてぎこちなく話を続ける。
カルナ「…か、この先輩みたいに高校生になるか、ほら、中3だし？もう」
カルナは軍服の詰められた袋の山を横目に、次はサナエが話し出す。
サナエ「かもしれない」
カルナはあいまいなサナエの回答に釣られて荷台の仕切りを杖代わりに立ち上がる。
カルナ「どっち…」
サナエ「…」
カルナ「…」
サナエは答えなかった。カルナはサナエの背中を見ながら沈黙の圧をかける。すると車を停車させるとサナエは圧に負けてか、ようやく口を開いた。
サナエ「もう着いたよ。もうすぐそこって言ったじゃん」
カルナ「…カート、とってくる」
サナエ「珍しいね、洗うの。めんどくさがってたのに」
カルナはすぐそばのカートに袋を山のように積むとカートを押して目的地の製糸場に入る。
この製糸場の廊下は非常に長く、同時にうす暗く湿っていた。一定間隔に電球がぶら下がり、廊下の最端を照らさない、そのつたない光は水っ気のある錆びた床に広がる浅すぎる水たまりをつたなく反射させた。
ただ水たまりを踏む音は砲撃のように単調なリズムであり、同じ音を繰り返した。戦争の音は単調である。
ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、と。カルナは思わずスピードを上げる。カートを押して、走り出すとどんどん音は激しくなり、とうとうしぶきも上がる。自分で自分の首を絞めているのに気づかずカルナはその単調な音から逃げ出していた。ただでさえ凸凹とした床を勢いよく駆けるものだからカートは転倒し、地面に袋がなだれ込んだ。
カルナは我に返り、なだれた袋をただ見下ろした。するとそこに同じクラスの女子中学生がやってきて何も言わず、むしろ何も思ってないようなうつろとした表情でただ地面に落ちた軍服が詰められた袋を洗浄場に持っていく。カルナは持てるだけの袋を拾ってその女子中学生のあとを追う。やはり、あの水浸しはこの洗浄場からだった。こちらの方が水深も深い。統計的な水たまりの中では浅く、足の甲を全体覆えないほどだった。だが誰もそれをなんとかしようと思った者はいなかった。次々に軍服がやってくるもので。血と染みついた汗や体臭を洗わなければならなかった。
大きな釜かまに洗剤はたっぷりの水が、白くにごるまでいれ、軍服の見積もり量は白く濁った水面から多少軍服がはみ出てるくらいがベスト。そこで色落ちしないよう20分、棒で混ぜたのちすぐ出して乾かせる。
中学生専用食堂でスマホ片手にまくろなるどバーガーを食べながら暇をつぶしていたサナエのもとにカルナがやってくる。
カルナ「乾いたよ」
サナエ「うわあ、長かったねえ…」
サナエは背伸びしながらカルナの後を追う。
乾いたらカートを二種類用意する。破れたりなどの破損しているものと比較的きれいなものに。比較的きれいなものはすぐ送り、あとから破損しているものは大量のミシンがずらりと並ぶミシン場に運ばれる。といっても頭を即死させたり、下半身の、スカートより下だけが傷つかない限り軍服のどこかしらが傷づくので滅多にそんなことはない。それにその過程でどこかしら気づかずに傷ついているもの。片方のカートは空の日の方が多かった。
カートをミシン場に運ぶと担当の中学生にそれぞれに数枚ずつ渡したのちカルナ自身も数枚持って空いているミシンに座る。そして傷を発見次第縫っていく。そしてカルナは一枚目のコートのタグを見る。
サナエ「なんでタグ残すの？」
カルナ「え、だって」
休み時間、カルナは屋上で遠くに見える線路を眺めながら逆に柵によりかかるサナエの質問に答える。
カルナ「伝えたいから。何も言われないらしいよ」
サナエ「伝えたいって、誰に？」
カルナ「…どっちも」
カルナはサナエの質問に対し、答えになってない返答をする。当然、サナエは首をかしげるがカルナの見る景色を見てピンと来たようだ。
カルナ「あ、きた」
サナエ「もしかして、あれ？」
カルナ「かもね」
サナエ「ふうん」
カルナ「なんでこうなったんだろうね、だまされたのかな。こうなるはずじゃなかったのに」
遠くの線路に、汽車が橋を渡った。
汽車の窓の一つが開かれ、中からオレンジ髪のワンサイドアップ髪の女子高生が身を乗り出して汽車の先を見る。
ミナミ「わあ、ここが、神世界…！」
わたしの名前はアリサカ・ミナミ。今年から晴れて女子高生です！
ゾフィア「わくわくするのも分かるけどまず危ないから」
ミナミ「ああ…」
このぼさぼさな金髪で緑色の瞳が特徴の子は、ゾフィア・シュワルド。通称ゾフィア！
ちょっとダウナーな子でわたしの中学生からの大親友です！ゾフィアは身を乗り出して窓に座って風を感じる私を座席におろします。なんかゾフィアがスマホに釘付けですね、何見てるんでしょう？スマホぶんどってみちゃえ！
ミナミ「なーにみてるんだYO！」
ゾフィア「あ、ちょっと…」
ミナミ「いーいじゃーん！ってこれ、わたしたちの新制服！？」
ゾフィアはわたしからスマホを奪い返す
ゾフィア「うん。なんか軍服っぽいけどスカートでかっこかわいくて」
ミナミ「こんなの合法で着れるの！？やっば、まじ楽しみ！」
ゾフィア「だね」
そうこんなしてると警笛が鳴りました。到着の合図です！
ミナミ「やっとだあ～！へとへとだよー」
ゾフィア「座ってただけでしょっと」
ゾフィアはわくわくを隠してなんかクールに荷物を降ろしてます、高校生デビューってやつでしょうか！
ゾフィア「なににやにやしてんの、降りるよ」
ミナミ「あ、そうだった！」
しまった！列を待っていたはずが、もう全員外に出てしまっていたではないか！
わたしはすべてが始まるような、光のさす出入口に向かって走り出す
ゾフィア「ねえちょっと！」
ミナミ「ゾフィアはやくはやく！」
わたしは迷うことなく列車の外に飛び出した。
外に出て真っ先に目に入ったのは…ドイツにあるはずのブランデンブルク門そして歴史ある街並み…わたしの視界いっぱいにわくわくと未来が詰まっている！本当なんだ！神様の門の中には地球をコピーした世界だって！！
ゾフィア「ねえ…いきなり走らないでよ…って、これって…！？」
ミナミ「そうだよ！…おはよう！！ドイツ
！！」
ゾフィア「まじか、神様細かいなあ、ここ地球ではないのに色んなの売ってる、なんかあっちの店でゴリラのレクイエムとかボッキ―…てか、沖縄にしか売られてないベニテングタケの森の限定フレーバーだって！ちんすこう味…なんでここにあるんだろう」
そんな冷ややかなゾフィアの対応にわたしはぷくーっと頬を膨らませる。
ミナミ「ノッてよ…」
ゾフィア「他人のフリしないだけ感謝しな」
ゾフィアは肩をポンポンと叩いてそのままわたしを置いて改札を通る。
ミナミ「待って待って…ぐはぁっ」
そこでわたしはゾフィアの後を追おうと改札を走り抜けようとしましたが改札扉の強烈なブローをおなかに食らって改札扉に干されたままゾフィアの背中に向かって手を伸ばして…
ミナミ「ま、まっでぇ～～～！」
ゾフィアに置いて行かれたその時、改札が開いてわたしは地面に膝をつけたのです。
？？？「なにしてんだお前」
すこし大人っぽい、低めの女の人の声が聞こえ、振り返るとそこには、
そこには銀髪の長髪の褐色肌、そして豊満な体つき、そして鋭い目をした女の人がいたのです。
豊満な体つき…私はあまりもの威圧的な風格に身動き一つとれなかった。豊満な体つき…豊満な体つき…
ミナミ「はわ、はわ、はわ」
？？？「おん？」
ゾフィア「ごめん…って何この状況」
そこに、救世主ゾフィアがやってきたのです！わたしは助けを求めるべく、救世主の名を叫びました。
ミナミ「エリ…」
その時です。またあの改札のフラップドアとかいうやつが閉まり、わたしのデコにストレートを入れました。
KOです…
ミナミ「う、うぅ…うぅ…」
するとまたおねえさんが電子決済で改札を開けてくれた。その隙を逃がさず私は超早歩きで逃げ出す。
ミナミ「あ、ありがとうございましたあああああああ！！！」
ラーメン屋さんにも負けないくらいの声量で感謝しながら、そのあとをゾフィアも追う。
？？？「いや、あの、980円…」
しばらく走った後、あまりにも疲れたのでAIタクシーを止めて寮まで乗る。
ミナミ「ひえー、こわかったー」
ゾフィア「一番怖いのあたしだけどな（請求で…）」
タクシー「目的地をお願いします」
ミナミ「たしか、日英第369寮で！」
タクシーが発進すると息をついて、ゾフィアはクーラーをつける。
ミナミ「うわあ、なんか買っとけばよかったねえ…」
ゾフィア（さっきの人が払ってくれたことにはノータッチかよ…）
ゾフィア「あ、でも寮の一階にいろんな店あるらしいよ」
ミナミ「まじ！？なにあるんだろう！？」
ゾフィアはスマホを取り出し、検索する。
ゾフィア「コティバ、バーゲンダッシュ、ミセスドーナッツ、マクロナルド、」
ミナミ「ありすぎじゃない？」
ゾフィア「そりゃモールと一体型だし」
ミナミ「何それすご。そんなのあるの」
タクシー「到着しました。1480円です」
料金を支払ったのちタクシーを降りて寮に入る。
ミナミ「自動ドアだ…」
ゾフィア「どこにもあるよ」
入ってすぐ、もうすでに誰も並んでない受付に座る女子中学生の店員に駆け寄る。
受付「あ、新入生の方ですか？学籍番号とお名前をおねがいします」
ミナミ「はーい」
書き終えると受付は何かをカウンターの下から取り出す。
受付「405号室と406号室。キーと、制服になります。両親の誇りですね」
ゾフィアが先に行ったあと、わたしはつい制服を見てにやにやとする。
受付「あの、どうかされましたか？」
ミナミ「いいえ、少し楽しみで…」
そう、ゾフィアの後を追おうとしたその時でした。
あれ？
受付に戻って制服を置く。
ミナミ「これ、別の人のですよ」
受付「ああ、きっとサイズが小さすぎたのでしょう。はい、こちらを」
受付はタグを破ってミナミに渡す。ミナミが去った後、カウンターの床の下にタグが落下する。
タグには「サシャ･アルブレヒト」と記されていた。
