──翌日。
学校に着いてノートの整理をしていると、教室の外から賑やかな声がする。
……間違いない。瑠夏のグループだ。
昨日と一昨日で聞き慣れた男女の声。教室に近付いてきてるから絶対そう。
挨拶くらいは、と言われたけど…正直、どんな顔すればいいかわからない。
ぐるぐる考えてる間にその賑やかな声が教室に入ってきた。
「碓氷、おーっす!」
「碓氷、おはよ」
「……っす」
瀬戸と佐野からの挨拶に、素っ気なく返してしまう。
本当はちゃんと返したいのに…瑠夏が聞いてると思うと、2人に視線を向けることもできなかった。
それで瑠夏と目が合ったりしたら、諦めようとした気持ちが止められなくなるから…。
「千早、おはよう」
瑠夏も挨拶してくれる。
でも、瑠夏も気まずいと思ってるのか、いつもみたいな明るい声ではなかった。
「……」
瑠夏の方は見ず、会釈だけする。
『とっくにおまえに声かけるのやめてる』
前みたいな態度とってれば、諦めてくれると思ったから。
学校では避けてても、おれらにはゲームって共通点があるし。
いつかこの気持ちにケリがついた時には、もう一度あのゲームセンターに行くんだって決めた。
それまではゲーセンにも行かないし、学校でも避ける。
大丈夫…。きっと忘れられる。
「碓氷くん、おはよう」
「あっ、お、おはよう!」
次に挨拶してきたのは松雪さん。
松雪さんはいい人だから、ちゃんと挨拶を返したい。
「もうすぐテストだねー。
碓氷くん自信ある?」
「いや、全然…。
おれいつも成績、平均よりちょい下くらい…」
「うちもそんなもんだよー」
へへーっと笑ってから、松雪さんは友達のもとへ行ってしまった。
彼女はおれのことをよくわかってると思う。
挨拶してちょっと話したらすぐどっか行く。
ずっと一緒にいて話題探すほうがおれは気疲れするし、松雪さんは本当にそういうところの塩梅が完璧っていうか。
だから一緒に話していても疲れない。
祐希といるときみたいな居心地の良さがある。
祐希とはずっと一緒にいたから、ちょっと状況は違うけど。
「ねー、テスト前にもう一回くらい勉強会しない?
今日の放課後とか」
「だるい。自分で頑張れ」
「瑠夏つめたーい」
気にしたくないのに、瑠夏のグループの会話が気になってしまう。
チラリと視線を向けると、歩梨さんが瑠夏に抱き着いていた。
……今はまだ、冷静ではいられない。
でもいつか、瑠夏と歩梨さんの距離が近いことも気にならなくなるはず。
……早く、忘れなきゃ。