──ガチャ。バタン。


寝ようと目を閉じたのに、玄関の方からドアの閉まる音がしてハッと目を開けた。

……瑠夏、帰ってきた…?

眠ろうとしていたのに、意識が完全に玄関から近付いてくる足音に向いてしまう。

布団を被ったまま、じっとその音が来るのを待つ。

ガチャ、とリビングのドアを開けた音がして、瑠夏に背を向けるようにして寝てるフリをした。


「……まだ寝てんのか」


小さく呟くと、足音はキッチンの方へ。

そしたら、キッチンの方から瑠夏が佐野と話してる声がした。


「瑠夏、おかえり」

「ただいま。
……あれ、そのコップおまえのじゃなくね?」

「さっき碓氷が起きてきて水飲んでた」

「あー……そう」


佐野、おれが起きてたって言わなくていいのに!

ほんとアイツ空気読めないっていうか、人の気持ちも考えろよ!


「……じゃあ、もしかして起きてる?」

「いや、二度寝するって」

「そっか」


ちょっと、ホッとしたような瑠夏の声。

瑠夏も……もしかして気まずいのかな。


「碓氷に聞いた、おまえ碓氷にキスしたって」

「……やっぱ言っちゃったか」

「まさか瑠夏がそんな奴だとは思わなかったなー」


ハハハ、と佐野のからかうような笑い声が聞こえる。

だけど、瑠夏の笑い声は聞こえない。


「笑い事じゃねーんだよ」

「……瑠夏?」

「あーーもう。全部狂った」


笑うどころか、イラついたような声。

瑠夏……

寝ぼけてたとはいえ、

そんなにおれとのキスが嫌だったのかよ。