その時、暗闇の中でもわずかに見えた狭い視界に、誰かの顔がものすごく近くにあることだけはわかって。

1、2秒くらい経ってから、唇に触れていた感触がふっとなくなる。

そこでおれは不思議に思って、

ゆっくりと目を開けた。


「……え、」

「る、か…?」

「ちは…、え、起き…っ」


目が慣れて、真っ暗な部屋の中でもなんとなく何をしてるかはわかった。

瑠夏が、おれからパッと離れて、手の甲で口を抑えてるのも。


「瑠夏…もしかして、今…
……き、キス…」


だって、口に触れてた時、顔ドアップだった。

瑠夏の今の反応を見ても、瑠夏、今絶対おれにキスし…「違うから!」

「え?」

「………違う、ごめん、間違えた…」


『忘れて』と言って、瑠夏は自分の布団に戻った。

どういうこと?って、聞けたらよかったのに

『忘れて』という言葉を聞いたら、それ以上は何も言えなかった。