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(ノートと教科書、筆箱…入れた。
着替え、ハブラシ…よし)


土曜日の朝。

荷物の確認をして母さんに『いってきます』と行って、集合時間より1時間前に家を出た。

集合場所まで行くのに1時間かかるわけじゃない。先に手土産を買いに行くためだ。

集合場所とは反対方面にある製菓店に、ロールケーキでも買おうと思って歩き出した。


数分歩いて、もうすぐお店に着くところまで来た時。


「…ーい!ちはやー!」


大通りを挟んだ歩道橋の下あたりから、おれを呼ぶ声がした。

……誰?

誰かがこっちに向かって手を振ってる。が、目がそこまで良くないおれは立ち止まってグッと目を細めた。


「今そっち行くー!待ってろー!」


そう言われた時、声でようやくわかった。瑠夏だ。

完全に反対方向に向かって歩いてたのに。しかも大通り挟んでたのによくおれに気付いたな。

歩道橋を渡っておれのもとへ来た瑠夏は、デカいカバンを持ってるおれと違って手には何も持っていなかった。


「千早、なんでここに?
集合場所反対方面だけど」

「手ぶらでお邪魔するわけにはいかないから、
ケーキ買いに…」

「まじ?
集合場所から俺んち行くときにみんなコンビニでなんか買うつもりだよ?」

「えっ!!」


こ、コンビニで良かったのか…!!


「千早は友達ん家行くときケーキ買うんだ?
育ちいいなー」

「育ちいいとかじゃなくて、
それが普通になってるだけ…」


そりゃ、今回みたいに友達だけとかならコンビニ菓子でも全然いいけど…

相手の家族のこと考えたら、ケーキくらいが一番良いかと思うじゃん。

それが普通だったし、今でもそれが当たり前になってるだけ。


「それより瑠夏は?まだ集合時間には早いのになんでここに?」

「ん?ちょっと散歩。
休みの日は朝ランニングするんだけど、今日は行ったり来たりで歩くから、ランニングなしにしてその前にもうちょい歩いとこーかなって」

「ランニングするんだ?
健康そうな生活…」

「健康でいたいからな」


ストイックだなー。