夜は、なかなか寝付けなかった。

寝る前に瑠夏から『明日またゆっくり話させて』と連絡が来たから、期待しすぎてドキドキしてたのも原因かもしれない。

寝ようと目を閉じるとキスされた日のことを思い出すし…

実はこれは夢で、明日になったら全部覚めたりして…。

現実であれと願いながら布団を被って目を閉じた。





───……


朝起きて、まずスマホを確認した。

瑠夏からの『明日またゆっくり話させて』のメッセージを見て、夢じゃないと確信して。

実はあんまり眠れてないけど、こんなにもワクワクに満ちた朝は初めてだ。


いつもより少し早く家を出て学校に向かう。

その足取りはいつもより軽かった。




学校に着いて教室に向かっていると、

ノートの山を抱えながら、松雪さんがゆっくり歩いていた。


「松雪さん、おはよう」

「えっ?
あ、おはよ、碓氷くん」


いつも松雪さんの方が遅いのに、こんな朝早くに会うとは思わなかった。


「松雪さん、今日早くない?」

「うん〜。
テスト前に提出したノートの返却のために、朝受け取らないとって思ってさー」


それでわざわざ早くに来たんだ。真面目だなぁ。


「半分持つよ」

「えっ、いいの?」

「同じ教室行くんだし」


力仕事してる女の子見て、協力しないなんてそんな酷いことしないよ。


「…やっぱ優しいよね、碓氷くん」

「いや、わざわざこんな仕事受けてる松雪さんの方が優しいでしょ」


本当は係の人いた気がするけど…

松雪さんが自分で買って出たんだとしたら、十分優しいけどね。


「……うちはさ、下心あるから」

「……へ?」

「優しいとかじゃなくて、
良い子に見られたいだけ」


2人でノートを持って階段を上ってたら、

松雪さんは踊り場で急に足を止めた。


「……松雪さん?」

「あの…、
う、碓氷くんってさ」

「うん?」

「…か、

………彼女、いる…?」


消え入るような声だったけど

松雪さんがなんて言ったのか、ちゃんと聞こえた。