「……俺も夢みたいだって思ってる」

「!」

「千早に避けられた時、
俺の好意が気持ち悪くて拒否られたんだと思った」

「違…っ!」

「だから今、夢みたいだって思ってる」


……同じだったんだ。

瑠夏も、おれが男だから素直に言えなくて、おれと同じように悩んでたんだ。

おれも瑠夏の背中に手をまわそうとしたら、

瑠夏の抱きしめる力が緩まって。

代わりに肩を掴まれ、瑠夏と目が合った。


「千早。
俺も千早と恋人に──」


その言葉の先が紡がれる前に、

廊下から、教室に近付いてくる足音が聞こえた。


「やべ…歩梨かも」

「あ…」


そうだった。

この後、歩梨さんが瑠夏に告白…。

祐希の言う通り、もしも瑠夏が誰にでも良い顔をするなら、歩梨さんに期待させる答えを出すかもしれない。

おれの告白は成功した、と思うのに、不安は拭えない。

だって、誰がおれと瑠夏が付き合うことを祝福してくれるの。

瑠夏だって、歩梨さんと付き合ったほうがみんなに喜んでもらえるってわかってる。

いくら好き同士でも、おれたちは『お似合い』と言われないから。

歩梨さんを選んでも仕方ないって思ってしまう…


「大丈夫だから」

「……え?」

「……これだけは、まわりにどう見られるかとか気にしないから。
俺、もう戻れないとこまで千早のこと好きだからな」


『だから信じて』と言って、瑠夏はおれの額にキスを落とした。

そんな行動に、照れないはずもなく。


「……帰る…っ!」


顔を真っ赤にしながら、歩梨さんとは顔を合わせないように玄関までわざわざ遠回りした。

瑠夏はずるい。

初めて話したあの日から、おれの中の瑠夏への好きって気持ちは増していく一方だ。


キスされても、避けられても、

一度も嫌いになったことなんてない。


こんなに恋に悩むことになるなんて、思いもしなかった。

こんなにも恋する気持ちが大きくなるなんて、思いもしなかった。