宙くんは一瞬じっと私を見つめた後、ふっと優しく笑った。

「そっか。彗と一緒にいる時の想乃ちゃん、なんかすごくいい顔してるからさ…なんとなく、そうなんじゃないかなって思ってた」

彼の声はいつも通り穏やかでどこか安心させてくれるような響きがあった。でも、その笑顔の裏にほんの少しだけ寂しさが混じっているようにも見える。

「想乃ちゃんが幸せそうなら、俺も嬉しいな」

彼の言葉に、ふと莉桜の顔を思い浮かべる。
胸が少し締め付けられるような気がした。そんな風に言われたらなんて返せばいいのかわからなくて。

でも、宙くんの優しさがそのまま伝わってくる。

「…ありがとう、宙くん」

私はそう言うのが精一杯だった。宙くんはただ微笑んで軽く肩をすくめる。

「俺はいつだって、想乃ちゃんの味方だからさ」

彼の言葉が胸にじんわりと染み込んでいく。
莉桜に言われた言葉───彼が抱いてる好意のこと。
本人から言われた訳でもないのに鵜呑みにしてしまったら失礼だ。だからあの時ははっきりと信じてはいなかった。

けれど宙くんと話していると伝わってきてしまう。私が彗を好きだと気付いた時と同じように。
どうしても私に向けてくれるその視線はいつも優しくて、暖かく感じたから。

宙くんの優しさが私にはどうしようもなくありがたく、そして切なく感じられる。
そんな時にふと視線を感じた。ちらりと見てみるとそこには彗がいた。

「っ!」
その瞳を見ると胸が高鳴るのが分かる。同じ男子でも宙くんといる時とは感じない特別な感覚だ。

けれど、目が合った瞬間彗はすぐに視線をそらしてしまった。
なんで…?言葉が出る前に彗は教室の出口へと向かってしまう。

その背中を見つめながら、胸がざわざわと落ち着かない。彗…いつもとは少し様子が違かった気がする。
どうして急に去ってしまったのかも分からない。