バスを降りた瞬間、修学旅行特有の活気が一気に押し寄せてきた。生徒たちの笑い声やカメラのシャッター音が周りに響き渡る。

「よし、皆いるね。じゃあ行こっか」
宙くんが班のメンバーの点呼を終え、さっそく私たちは観光地へと向かった。今日は京都にある神社に行く予定だ。

宙くんの表情には期待感が溢れていて、その視線は私に向けられていることに気付く。
「楽しみだね、想乃ちゃん」と宙くんが隣に並びながら声をかけてくれる。

「うん、そうだね」と答えつつも、莉桜の視線に気付いてしまってどこか落ち着かない気持ちが胸に広がる。
彼女の方を見てみると不満の色は徐々に広がっている。彼はきっと気遣いで私に話しかけてくれているだけだ。それなのにこんな勘違いをおこされて宙くんに申し訳なくなる。

「あ、えっと、唯!楽しみだね!」
「え?うん!楽しもうね」
私はどうにかして莉桜の誤解を解きたいと思い、唯に話題をふって彼との距離を離す。

突然のことで唯もきょとんとした表情を浮かべているがいつも通りに返してくれて良かった。

私がいなくなった事によってか、莉桜は宙くんの隣に立ちながら彼に話しかけるチャンスを伺っているようだ。
彼女の目は真剣で、少しでも宙くんと話したいという思いが伝わってくる。

「ねぇ、宙。神社行く前にどこかで休憩しない?」と莉桜が提案する。
宙くんは一瞬考えた後、「いいよ、少し歩いて疲れたしね。みんなもいいかな?」と周りを見渡す。

私と唯も頷き、彗も無言で了承の意を示す。
小さなカフェに立ち寄ることにした私たちはそれぞれの飲み物を注文し外のテラス席に座った。

温かい陽射しが心地よく、観光客たちの声が背景音のように流れている。
莉桜は宙くんの隣に座り彼と楽しげに話し始めた。そんな様子を見ていると本当に宙くんの事が好きなんだなぁと思ってしまう。
彼女の仮面はいつも以上に可愛らしい桃色に染まっていてすごく楽しそうな笑顔だ。
恋って、こんなにも早く乗り換えられるものなのだろうか。私には経験がないから…よく分からないけれど。