これだから鏡は苦手だ。自分の仮面なんて見たくもない。私の仮面なんて…気持ちなんてどうでもいい。
これはきっと人をの気持ちを見るために与えられたものだろうから。

そんな事を考えながらシャワーを止めるとすぐに人の声が聞こえてくる。

『っ…さぃ…うるさぃんだよ!!』
『…お前のせ…だろ!!!!』

かすかに聞こえてくる騒音はいつもと同じで。きっとお風呂場のドアを開けたらもっと大きいんだろうなあと他人事のようにぼーっと考える。

「今日はご飯無理かなぁ」

流石にこの状況で夕飯はいつですか?なんて聞けるわけもない。喧嘩が続いて結局何も食べられない日があるなんてしょっちゅうだ。
その為に引き出しの中に軽い軽食をいれたりもしているのだから。

私は出来るだけ声を聞かないように耳を塞いで自分の部屋へと足早に向かった。まだ拭ききれていない髪からは水滴がぽたぽたと垂れてタオルに染みていく。

ガチャンとドアを閉めて呼吸を整える。お風呂に入ったはずなのに汗は止まらなくて心臓もひどく音を立てている。
すぐに引き出しを見ると中は空になっていた。

「そうだった…一昨日に食べて買うの忘れてたや」
まぁ今日くらい食べなくても大丈夫だと思い私は少しの空腹を抑えながらドライヤーで髪を乾かした。

乾ききった後に時計を見るも時刻は9時。寝るには早い気もするがこれ以上起きていてもお腹が減るだけな気がした。
耳をすませば、まだ下からは罵声や怒鳴り散らかす声が聞こえてくる。明日のアラームをすぐにセットして私はアイマスクと耳栓をつけた。

何も聞こえない静寂な空間と暗闇が私を包む。
落ち着いて、誰にも邪魔されないような空間だ。

夢が覚めたらまた笑顔の始まりだ。そんな事を考えながら私は深い眠りについた。