花火大会の誘いを受けたあと、俺はひとり考え込んでいた。
宙と喧嘩を思い出す。お互い言い合いになって、気持ちはすれ違ったままだ。宙の言葉が何度も頭の中でリフレインする。
『想乃ちゃんを傷つけてるって分かってないのか!』
「はぁ…そんなの、分かってんだよ…」
思わず声が漏れる。俺だって想乃を傷つけていることくらい理解している。
だからこそ、彼女からの花火大会の誘いを断ることなんてできなかった。宙の言う通り、これ以上彼女に傷を負わせるわけにはいかない。
だが、これ以上踏み込んでしまうのがどうしようもなく怖くなった。過去の裏切りや壊れた関係が、今でも俺をずっと縛り付けている。
どうするべきか、答えはまだ見つからない。
ただ心の中に重くのしかかるのは、想乃の笑顔と、宙との不和だ。
俺は一人、部屋の窓から空を見上げていた。もうすぐ花火大会が始まる。その輝きを見たとき、俺は何を感じるのだろうか?
俺が今感じているのは、ただ漠然とした迷いと不安だけだった。
その夜は結局、一睡もできなかった。悩んでも答えは出ず、少し憂鬱な気分を抱えたまま学校に向かう。
教室に入ると、すぐに想乃と目が合った。
彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに心配そうに俺を見つめてくる。けれど、最後にはいつものように柔らかな笑顔を浮かべて、小さく手を振った。
そんな彼女の表情が次々と変わる様子を見て、自然と俺の口元にも笑みが浮かんでいたことに気付く。
だが、心の中に漂うモヤはまだ晴れず、軽く手をあげただけで彼女に話しかけることはできなかった。
ぼーっとした頭で授業を聞いていると、たまに眠気が襲ってくる。集中もできないまま、瞼が重くなっていたところ、教師の声が頭に響く。
「おい彗ー、寝てんじゃねーぞ!起きろ!」
その瞬間、クラスメイトたちの笑い声が教室に響いた。
「何やってんだよ、あいつ」 「彗くんうける」
周囲の軽口も、俺にはただの雑音にしか聞こえない。クラスでのこうした冗談には慣れている。深く気にすることもなく、「うっせ」と軽く返すと、また笑い声が教室中に広がった。
何事もなかったかのように平然を装い授業を続ける。だが、心の中では依然としてモヤが晴れないまま、時間が過ぎていった。
放課後になり、荷物をまとめながら今日も宙と一言も話せなかったことに気づく。
軽く溜息をつきながら、「…帰るか」と呟いたその時、目の前に影が落ちた。
顔を上げると、宙が立っていてつい目を見開く。
「彗、ちょっとついてきて」
その声は以前よりか穏やかで、一瞬戸惑う。
だが無視をする理由もない。何が何だか分からないまま、宙の背中を見つめて俺は無言で彼の後についていった。
行き着いた場所は──見慣れた体育館だった。
「何でここに…」
俺が聞こうとした瞬間、それを遮るように宙は口を開く。
「俺と勝負してよ。彗」
「…は?」
瞬間、理解が追いつかず言葉を失う。宙は真剣な顔つきで俺を見つめていた。
「想乃ちゃんのこと、どっちが真剣に好きなのかこれで決めよう」
宙はバスケットボールを持って俺に差し出す。想乃のことを――どっちが真剣に好きか。宙は本気でそんなことを言っているのか?
「前にも言っただろ…俺は」
言葉が出かけたが、喉の奥でそれが詰まる。これまで何度も自分に言い聞かせてきた「好きじゃない」という言葉が、胸を強く締め付けた。
宙の瞳は、今まで見たことがないほどの決意に満ちている。そんな彼を前にして、また"自分に嘘をつく"ことに罪悪感が押し寄せる。
俺は本当に想乃のことを…諦められるのか?寝不足のせいか頭がズキズキと痛み、その痛みが胸の奥にも響いてくる。ずっと逃げ続けてきた気持ちが今、目の前で宙に向き合うことで暴かれそうになっていた。
「…分かった」
いつの間にか口からは自然と言葉が漏れていた。自分でも驚くほどあっさりと受け入れてしまったが、それ以上の選択肢は思いつかなかった。
宙の真剣な眼差しを見ていたら、断る気にはなれなかったのだ。
体育館の中央で、しばし無言のまま対峙する。
「やろう、彗」
その言葉には力が込められている。もう後には引けないだろう。
宙と喧嘩を思い出す。お互い言い合いになって、気持ちはすれ違ったままだ。宙の言葉が何度も頭の中でリフレインする。
『想乃ちゃんを傷つけてるって分かってないのか!』
「はぁ…そんなの、分かってんだよ…」
思わず声が漏れる。俺だって想乃を傷つけていることくらい理解している。
だからこそ、彼女からの花火大会の誘いを断ることなんてできなかった。宙の言う通り、これ以上彼女に傷を負わせるわけにはいかない。
だが、これ以上踏み込んでしまうのがどうしようもなく怖くなった。過去の裏切りや壊れた関係が、今でも俺をずっと縛り付けている。
どうするべきか、答えはまだ見つからない。
ただ心の中に重くのしかかるのは、想乃の笑顔と、宙との不和だ。
俺は一人、部屋の窓から空を見上げていた。もうすぐ花火大会が始まる。その輝きを見たとき、俺は何を感じるのだろうか?
俺が今感じているのは、ただ漠然とした迷いと不安だけだった。
その夜は結局、一睡もできなかった。悩んでも答えは出ず、少し憂鬱な気分を抱えたまま学校に向かう。
教室に入ると、すぐに想乃と目が合った。
彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに心配そうに俺を見つめてくる。けれど、最後にはいつものように柔らかな笑顔を浮かべて、小さく手を振った。
そんな彼女の表情が次々と変わる様子を見て、自然と俺の口元にも笑みが浮かんでいたことに気付く。
だが、心の中に漂うモヤはまだ晴れず、軽く手をあげただけで彼女に話しかけることはできなかった。
ぼーっとした頭で授業を聞いていると、たまに眠気が襲ってくる。集中もできないまま、瞼が重くなっていたところ、教師の声が頭に響く。
「おい彗ー、寝てんじゃねーぞ!起きろ!」
その瞬間、クラスメイトたちの笑い声が教室に響いた。
「何やってんだよ、あいつ」 「彗くんうける」
周囲の軽口も、俺にはただの雑音にしか聞こえない。クラスでのこうした冗談には慣れている。深く気にすることもなく、「うっせ」と軽く返すと、また笑い声が教室中に広がった。
何事もなかったかのように平然を装い授業を続ける。だが、心の中では依然としてモヤが晴れないまま、時間が過ぎていった。
放課後になり、荷物をまとめながら今日も宙と一言も話せなかったことに気づく。
軽く溜息をつきながら、「…帰るか」と呟いたその時、目の前に影が落ちた。
顔を上げると、宙が立っていてつい目を見開く。
「彗、ちょっとついてきて」
その声は以前よりか穏やかで、一瞬戸惑う。
だが無視をする理由もない。何が何だか分からないまま、宙の背中を見つめて俺は無言で彼の後についていった。
行き着いた場所は──見慣れた体育館だった。
「何でここに…」
俺が聞こうとした瞬間、それを遮るように宙は口を開く。
「俺と勝負してよ。彗」
「…は?」
瞬間、理解が追いつかず言葉を失う。宙は真剣な顔つきで俺を見つめていた。
「想乃ちゃんのこと、どっちが真剣に好きなのかこれで決めよう」
宙はバスケットボールを持って俺に差し出す。想乃のことを――どっちが真剣に好きか。宙は本気でそんなことを言っているのか?
「前にも言っただろ…俺は」
言葉が出かけたが、喉の奥でそれが詰まる。これまで何度も自分に言い聞かせてきた「好きじゃない」という言葉が、胸を強く締め付けた。
宙の瞳は、今まで見たことがないほどの決意に満ちている。そんな彼を前にして、また"自分に嘘をつく"ことに罪悪感が押し寄せる。
俺は本当に想乃のことを…諦められるのか?寝不足のせいか頭がズキズキと痛み、その痛みが胸の奥にも響いてくる。ずっと逃げ続けてきた気持ちが今、目の前で宙に向き合うことで暴かれそうになっていた。
「…分かった」
いつの間にか口からは自然と言葉が漏れていた。自分でも驚くほどあっさりと受け入れてしまったが、それ以上の選択肢は思いつかなかった。
宙の真剣な眼差しを見ていたら、断る気にはなれなかったのだ。
体育館の中央で、しばし無言のまま対峙する。
「やろう、彗」
その言葉には力が込められている。もう後には引けないだろう。