生贄姫は神様に溺愛される。

「あのね、あなたは優しい子よ。だから、大丈夫。いつか信じられないほどの幸せが、あなたを包み込むわ」

「真優、大丈夫。君のことをいつでも見守ってるからね」


今日も重たい瞼を持ち上げて、朝を迎える。

夢の中でそう囁く人物たちに、私は見覚えがない。

だけど、他人とは思えなかった。

「ちょっと!お姉ちゃん!?」
「ど、どうしたの……?」


部屋のドアをバンッと開けた妹雛乃に驚き震える。


「どうしたのじゃないわよ!!朝食がまだでしょう?早く作ってちょうだい!」
「ご、ごめんなさい……」


急いで部屋を出て顔を洗い、キッチンへと向かう。

母親と父親はソファの上でくつろぎながらテレビを見ていた。

平凡そうで、どちらかと言えば優しそうな両親だがそんなことはない。


唯一、この家でまともと言えば食事をする瞬間。4人で机を取り囲み、料理をいただく時のみだ。

憂鬱な気分ながら、食事を取る。両親は何も言わない。わがままな妹はこれでもかというほどに愛されているこの状況。

血は繋がっているはずなのに、遠い人たちのようだった。




いつも学校には、妹の護衛のごとく2人で登校させられる。


2人の共通点といえば、親から恋をする許可をもらっていないことだった。


妹は大切にされているから。真優はどうしてだかはわからない。


「ねぇ、お姉ちゃん?」
「な、なぁに……?」
「きゃっ!」

雛乃の方を向かされた瞬間、転ばれてしまった。


「だっ、大丈夫!?」


急いで駆け寄る。真優のか細い心配する声に気がついた周りの学生たちも、心配そうに近づいてきていた。


それもそのはず。雛乃はとても容姿がよく、モテていたのだ。


「お、お姉ちゃんが間違えて足を引っ掛けちゃったみたい……でも大丈夫、そんなに怪我はしてないから」
「間違えてって……そんなはず、ないだろ」
「そうだよ!きっと、雛乃ちゃんが嫌いだからやったんだ」
「え……?」


気がつけば、幼稚園生の頃も小学生の頃も中学生の頃も今も、みんながみんな自分のことを悪者にして、省かれていた。


「……っ」


あまりに冷たい目を向けられて、その場から走って立ち去った。

いつもそうだ。なんと言おうと、みんな雛乃が正しいと信じる。


だけど信じている。いつか、自分の目の前に番様が現れて、幸せにしてくれるって。


そして、1週間後はあやかしがかくりよに降りて来る、10年に一度の日でもあった。

まだ番のいないあやかしたちが、人間をもらいにくるのだ。

少し、期待してしまっていた。


教室でぽつり、1人で席に座る。


「……ねぇ、君真優ちゃんだよね」
「えっ?あ、えっと……」


男性と関わることは禁止されているため、名前すら知らない隣の席の男の子。

というか、こんな綺麗な顔をしていたのだろうか。


「僕は由良だよ。よろしくね」
「あ、あの……私とあんまり、話さない方がいいですよ……?」
「なんで」
「だ、だって……」
「ああー!お姉ちゃん男の子と喋ってるー!」

そう言って由良に近づく雛乃。内心、焦りが止まらない真優。

少し喋っているところを見られてしまった。このまま帰ったら、また両親に叩かれたり殴られたりするかもしれない。

特に父親は恐ろしく、怒らせたら大変なことになる。

下手したらもう生きられないかもしれない。


「由良くん、どうしたの?由良くんが喋るのなんて珍しいねっ」
「……」


由良は無視を貫いた。まるで、真優にしか興味がないと言わんばかりに。

というか、やはり由良なんて男の子、いなかったような気がする。


「……帰る、またね、真優」
「えっ……あっ……」


ポンポンと頭を撫でられて、由良は去って行ってしまった。

黒髪に赤い目が特徴的な彼は、なんだか不思議な感じがする。

そして、彼がいなくなった途端、雛乃の様子が変わったのだ。

「……あ、れ?なんでこんな角の席に……」


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