「わかったよ、セリオン。私にも敬称は消してくれ。なんの用だ?」
「これをあなたに。守ってくださったのと、鹿のお礼です」
 セリオンは懐から先程祈りを込めたの木彫りを取り出し、差し出した。
「お守りか」
 レナシェルは受け取り、笑う。
「ださ!」
 アーリスを象徴する紋章を木彫りに紐を通してペンダントにしたものだ。洒落っ気などまったくない。
「お守りにダサいも何もありません」
 セリオンはムッとして答える。
「王都には私も行ったことあるが、もっと洒落たお守り(もん)が売ってるぞ」
「そんなに文句言うと上げませんよ」
「いや、もらっておく。売ればいくらかにはなるだろ」
 レナシェルは笑顔でペンダントを首にかけた。
「売るのは……まあ自由ですが。あなたのために作ったんですよ。一度くらいはあなたを守ってくれるはずです。私も持ってますよ」
 言って、セリオンは服の下に隠すように首から下げていたお守りを見せる。
「ふうん。賞金稼ぎや傭兵には信心深いやつもいるが……」
 レナシェルは木彫りをつまみ、首をかしげる。
「結局は気の持ちようだろ」
「そういうことも否定はしませんが。誰にも守られないと思うよりは、誰かが見守ってくれていると思う方が気持ちが休まりませんか」
「そんな安っぽい幻想に浸ってられる世界で生きてないんでね」
 レナシェルは皮肉に笑い、話は終わりだと言わんばかりに素振りを再開した。
 セリオンは無言で頭を下げ、その場を去った。



 午前中、クラナンがファービアを伴って神殿に来た。
 セリオンはすかさず彼らに話しかける。
「昨日、どのあたりで鹿を狩ったのか、教えていただけますか?」
 セリオンの言葉に、クラナンは身をすくめた。
「ごめんなさい。入っちゃいけないところに入ったから……」
 怒られると思ったのか、クラナンは怯える。
「怒りませんよ。ただ、お清めをしておきたいと思いましてね」
「お清め?」
「来たか、少年」
 汗を拭きながらレナシェルが現れた。