「甘いな。悪人が悔い改めることなんぞない」
「まあそこは、人によりますからね」
 セリオンが言うと、レナシェルは意外そうに目を見開いた。
「案外、わかってんだな」
「王都の神殿で働いてると、きれいごとだけじゃないってのがわかるんで」
「王都から!? やっぱりなんかやらかしたな」
 レナシェルは面白そうに目を細めた。
「ちょっと上司ににらまれただけです」
「それを話せよ」
 にやにやと催促され、セリオンはあきらめて話した。
 聞いたレナシェルは憤慨した。
「なんだそいつ! 目の前にいたらなますに刻んでやるのに!」
「まあまあ、落ち着いて」
「お前はよく落ち着いてられるな」
「左遷が決まった直後は落ち込みましたよ。田舎を左遷先と言うのも、その地方の方々に失礼だと気づきましたし、もう今は、楽しみです」
「はん! さすが神官様は人間ができてらっしゃる」
 レナシェルは鼻白んだように言った。

 村に着いたセリオンは、手近な村人に話しかけた。
「この村に派遣された神官でセリオンと言います。村長はどちらでしょう」
「神官様!」
 村人は驚きの声を上げた。
「みんな、神官様が来たぞ!」
 彼が呼びかけると村人がわらわらと集まってきた。
「神官様だ」
「本当に来た」
「ありがたや」
 村人は狂喜し、中にはセリオンを拝む者もいた。
「この村には長いこと神官様が不在で、やっと来てくださった!」
「ありがてえ!」
 レナシェルはげんなりした顔で村を見渡した。
 木製のあばら家が建ち、道路は土かむき出しだ。都会のような石畳などありはしない。
「しょぼい」
 レナシェルは呟く。
 セリオンは彼女の足を踏んだ。
「痛え!」
「温かみのある素敵な村ですよ」
 セリオンがにこにこ言うと、レナシェルは顔をしかめて黙った。