男が用意した縄を手に、ゆっくりとユニコーンに近づく。この縄の先に作られた輪をユニコーンにかける、それがクラナンの使命だった。
 ユニコーンはすぐに気配に気が付き、クラナンを見た。
 しまった、見つかった。
 クラナンはうろたえた。
 だが、不思議とユニコーンは逃げない。
 クラナンはジリジリと一歩を踏み出す。
 縄を握る手に汗が浮く。クラナンは慎重に次の一歩を踏み出した。
 子どものユニコーンが興味深そうに頭をクラナンに向ける。
 母親のユニコーンは警戒しながらその様子を見守っていた。

***

「待て」
 レナシェルに静止され、セリオンは立ち止まる。
「人の気配がする」
 小声で言うレナシェルに、セリオンは沈黙で応じる。
「一人じゃない。数人」
 レナシェルは慎重に歩を進め、セリオンに顎をしゃくった。
 セリオンもまたゆっくりと歩き、彼女の視線を追う。
「あれは」
 セリオンが小声で言うと、レナシェルは頷いた。
「ユニコーンを捕まえようとしてるな。密猟か」
「そんな危険な」
「たかが馬だろ?」
「神の使いとされていますよ」
「神なんか、なんの役にも立たん」
「その不遜さは……と、言ってる場合ではないですね。なんとかしないと」
「お前の魔法でなんとかならないか?」
「魔法は万能ではないのですよ。ファービアが人質のようですから、まずはそちらをどうにかしないと」
「使えねーな」
 レナシェルは吐き捨て、じっと成り行きを見つめた。