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セリオンはレナシェルを伴って森に入った。
記憶を頼りに、クラナンが案内してくれたルートを辿る。
「なんで私まで」
レナシェルはぶつくさ文句を言う。
「宿代、鹿一頭では足りませんよ」
「命を助けたじゃないか」
「それは感謝しています。しかしあれだけ村の酒を飲んだのですから、少しくらい恩返ししてもバチは当たらないかと」
「正当な勝負の結果だ」
「自分がザルなのをわかっていて勝負するのはいかがなものかと」
「そういうもんだろ」
レナシェルは顔中に不満を浮かべる。
「クラナンたちを見つけたら報酬がもらえるかもしれませんよ」
「金なんかないだろ。まあ、葡萄酒はうまかったが」
「木苺のお酒もあるらしいですよ。林檎酒も」
「それもいいな」
レナシェルはぺろりと唇を舐めた。
「じゃあ、ひと肌脱いでやるか」
レナシェルはわくわくとつぶやいた。
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「来た! 一日で遭遇できるとはラッキーだな」
大人の一人が小さな声で仲間に言う。
白い馬に似た獣が、小さな同型の子どもを連れて歩いていた。ふいに立ち止まり、木の芽を喰む。ここにしか生えていない木の芽だった。
「あいつ子連れだぞ」
「なおさらラッキーだな」
ひそひそする声に、クラナンは口をつぐんて様子を見守った。
あのときの母ユニコーンが子を産んだのだ、とは思った。
「おい」
声をかけられ、ビクッと体を震わせる。
「いいか、子どもを狙え。親が襲ってくるかもしれないが、逃げるなよ。逃げたら妹の命はないからな」
「はい」
クラナンは震えながら頷いた。