「もちろんだよ」
「それなら」
 クラナンはごくりと唾を飲み込んだ。
「お兄ちゃん」
 ファービアが不安に声を上げる。
「お前は戻ってろ」
「でも」
「お嬢ちゃんも来てくれるのかい? それなら金貨を二枚にしないとな」
 金貨二枚。
 クラナンは目を見張った。
 金貨一枚は大人が数ヶ月働いてるとようやく得られるほどの価値があると聞いたことがある。
「私、行く!」
 ファービアが言い、大人たちの瞳が妖しくきらめいた。

***

 男は妻に揺り起こされ、不機嫌に目を覚ました。
「あんた、起きて。子供たちがいないの」
「どっか遊びに行ってんだろ」
「そうかもしれないけど、昼になっても帰ってこないのよ」
 言外に昼まで寝ている夫への非難も含まれていて、男はさらに不機嫌に顔をしかめる。
「神官様のことを気に入ってたから、神殿じゃないのか」
「神殿にも来てないって言われたのよ」
「子どもなんだから、腹が減ったら帰ってくるだろ」
 男はそう言ってまた横になった。酒が残った頭は重くて、どれだけでも寝ていられそうだった。
 妻はあきれてため息をつき、仕方ないと言わんばかりに家事に戻った。
 もしかしたらあの森にいるのかもしれない、とは思ったが、子どもなんてそんなものだ。行くなと言われれば行ってしまう。
 自分も子どもの頃はときどき森の入口まで行っていた。あの森の木苺は絶品だった。できるものならまた行って食べたい。だが、周囲の目があるからそれも出来ずにいた。
「子どもっていいわね」
 彼女はふう、とため息をついた。