「野盗が賞金首でないなら、まだこの村には危険が残っています。森の魔獣の噂も、神獣だけなのかわかりませんし、あちこちこわれた神殿の再建もしなくてはなりません」
「賞金首はガセかもよ。よくあることだ」
 レナシェルが言う。
「そうだといいのですが」
 セリオンは不安に月を見上げる。
 月は何も言わず、静かに地上を照らしていた。

***

 翌日の大人たちの起床は遅かった。
 浮かれて飲み過ぎた者が多く、勤勉な女たちは早くから起きて支度をするというのに、男たちは女たちが起こすまで寝床でぐずぐずとしていた。
 クラナンとファービアは父親よりも早く起きて、村に唯一の井戸で顔を洗った。
 いつもなら農作業の手伝いがあるが、今日はお休みだと村の大人に言われていた。
 日課の水汲みをしたあとは昼まで彼らの自由時間だ。
 そうして森に行く。
 禁域だから入ってはいけないと言われたが、あの森は人が来ないから実りが豊かだ。初夏には木苺、夏には葡萄、秋には林檎や栗が取り放題だ。
 夏の今はなんといってもやはり葡萄。甘酸っぱくてジューシーで、食べだしたら止まらない。あの恵みを森の動物たちだけのものにするなんて、できそうもない。
 森の入口付近なら。奥まで行かないから。
 言い訳して、クラナンは森に行く。
「お兄ちゃん、いいの?」
 不安そうにファービアはたずねる。
「ちょっとだけだよ。お前も葡萄は食べたいだろ」
「食べたい、けど」
「ちょっとだけだから。そうだ、神官様のぶんも採ってこよう!」
「うん! あのお姉さんの分もね!」
 ファービアが言うと、クラナンは笑って頷いた。
 だが、二人は葡萄を採ることはできなかった。
 森の入口には見知らぬ大人たちが三人いて、クラナンは一瞬、怖気づく。森に近づいたことを咎められるのではないか。そう不安に大人を見る。