「期待外れだな」
 レナシェルはつまらなさそうに言う。
「お清めというから、もっと派手な儀式を期待したのに、地味だ」
「大道芸人のパフォーマンスじゃないんですから」
 セリオンは苦笑した。
 茂みがガサッと鳴り、セリオンはハッとした。
 レナシェルの全身に緊張が走る。
 セリオンの脳裏には先日の野盗が蘇る。ああいう手合は禁域など関係なく、むしろ人が来ないからそういった場所をねぐらにすることすらある。
「人じゃない。獣……魔獣か? じっとしてろ」
 レナシェルが小声で注意を促す。
 セリオンはクラナンとファービアを守るように抱きしめた。二人はひしっとセリオンに抱きつく。
「……魔獣か」
 レナシェルが呟き、剣をすらりと抜く。
 彼女の視線の先には白い馬がいた。ややこぶりで、額には小さな角がある。お腹が大きいように見えた。
「あれは! レナシェル、あれは違います!」
 セリオンが思わず叫ぶ。
 白い馬は声に気がつくと走って逃げた。その足取りは馬にしては重い。
「逃げた……」
 レナシェルは緊張を解いて剣を鞘に戻した。
「違うとは、なんだ」
「神獣ですよ。ユニコーンです」
「あれが? 伝説の? 角が小さいじゃないか」
「よく描かれる角の長いのはオスですよ。あれはメスで、どうやら子どもを身ごもっているようですね。気が立ってるでしょうから近付かないのが無難です」
「子ども」
 レナシェルは顔をしかめた。
「子どもがいると気が立ってるって、変な話だよな」
「変ではないですよ。子どもを守るためですから」
「親だからって守るとはかぎらんだろ」
「まあ、そういう人もいるみたいですけどね。動物でも育児放棄をする個体はいますし」
 セリオンが言い、レナシェルはふん、と鼻を鳴らした。