「お肉はまたあとにしてください。これから彼と森に行くので」
「昨日は入るなと言ったのに?」
「今日だけです」
 セリオンは断言した。今後、もしかしたら調査のために入るかもしれないが、迂闊に少年の前でそれを言いたくなかった。
「ふうん。じゃ、私も行くよ」
「あなたが?」
「子どもと神官だけじゃ、魔獣が出たときに対処できないだろ。これは貸しだからな」
 レナシェルはニッと笑ってみせた。



 森は人の手入れがされていないために歩きにくかった。道らしい道はない。
 木の根っこがはびこる地面を踏み、彼らは進む。
「思ったより緑が深いな」
 セリオンは思わず独りごちる。
「こっち、このへんだったよ」
 少年は迷いなく進む。
「クラナン、君は森に何回も来てるね?」
 セリオンが言うと、クラナンはぎくっと顔を強張らせた。
「ちょっと遊びに来てるだけで、荒らしたりしてないよ!」
「危ないからもう来ちゃだめですよ」
「はあい」
 口を尖らせ、クラナンは返事をする。
「血の痕がある。ここだ」
 レナシェルが言うと、セリオンは頷いた。
 腰に下げた小瓶から水をまき、手を組んで祈りを捧げる。
「光の女神アーリスの照覧ある限り、この世に光あり。世をすべるは神の御業にて……」
 祈りを捧げる間、レナシェルは黙って待つ。
 クラナンはそわそわと落ち着きなく、ファービアは最初こそ興味津々だったが、すぐに退屈そうにキョロキョロし出した。
「お待たせしました。終わりましたよ」
 祈りを捧げ終えて、セリオンは言う。