頭上には青い空が広がり、緑で囲まれた街道で立ち止まった。
 風がそよぎ、青みがかった黒髪が揺れた。若草のような黄緑の瞳が、陽光の眩しさに細められる。
 とぼけた顔、とよく評される顔には今、少なくはない疲労が浮いていた。
「あとどれくらいだろ」
 ため息混じりの言葉に答えるものはいない。
 セリオン・カルナベールは一人旅の最中で、連れはいない。
 楽しい旅ではなかった。
 これは左遷の旅路だ。20歳、任官そうそうの左遷。
 最近まで王都アルテオンの神殿で新米の神官として働いていた。上司の機嫌を損ねてど田舎に左遷されたのだから、嬉しいはずがない。
 あれを見過ごしておけば、今でも快適な都暮らしだったのに、と思う。
 だが。
「嫌がる女神官を暗がりに連れ込もうなんて、やっぱり止めて正解だ」
 うんうん、と一人で頷き、彼はまた歩き始めた。
 騎馬の音が聞こえて、セリオンは道の端に寄った。
 ややあって馬は常歩(なみあし)で彼に追いついた。
 女性だ、とセリオンは驚いた。しかも自分より若く見える。
 剣を腰に携え、男性のような出で立ちをしている女剣士だ。こんな田舎に珍しい。
 長い銀髪をなびかせ、やや吊り目の紫の瞳はラベンダーのように美しい。
 まっすぐ前を向いている姿は凛々しくて、セリオンは目が離せなかった。
 追い抜かれざま、目が合う。
 彼女はニッと笑い、そのまま通り過ぎた。

 王都から徒歩で二週間。
 大きな街道から外れ、セリオンは歩く。
 あと1日2日で赴任地であるソロア村に着く。
 ほっとしたときだった。
 がさっと森の茂みが鳴った。
 セリオンはにわかに緊張した。獣か、魔獣か、それとも……。
 街道脇の森から、わらわらと男たちが現れた。
 やば!
 焦って引き返そうとするが、もうすでにそこには新手がいる。