一年前のことが、昨日のことのように思い出された。
 容赦なく照り付ける日差しに、うるさい蝉の声。
 僕はそれさえも気にならないほどに、浮かれていた。
 いつもの河川敷に腰を降ろして、緩やかに流れる川を見つめる。

 今日、やっと笹原さんに会える。

 彼女はあれから、あっという間に全国大会に出場し、これまたあっという間に一位を取って帰って来た。
 しかしその成績を認められ、急遽スポーツ推薦での留学が決まった。
 そうして彼女は本当に世界を目指して飛び立ってしまったのだった。

「ふっ…」

 僕の喉から、自然と笑い声が漏れた。
 本当にすごい人だ。笹原さんて人は。
 僕も負けていられないと、ひたすらに小説を書き続けた。
 彼女とはこまめに連絡を取り合っているけれど、会うのは久しぶりのことだった。

 僕は手にした小説を眺める。
 そこには、河川敷に並ぶ少年少女のイラストが描かれていた。
 作者は、滝本 秋弥。そう、僕だ。
 この本は、笹原さんを主人公にした物語。
 笹原さんが、陸上部で頑張る物語だ。

 僕が書いたこの本を読んで、彼女はどんな反応をするのだろうか。
 いつも笑顔で明るい彼女の顔を思い浮かべて、僕の心は温かくなる。
 きっといつかみたいに彼女は、きっとこう言ってやってくる。

「おつかれっ!」

 変わらぬ明るい声に振り返った僕は、彼女に笑顔を向けた。



終わり