「夏芽、実は今日学校の近くにワッフル屋さんがリニューアルオープンするんだって」
「えっ、そうなの!」
「うん、って知らなかったんだ。甘いものに目がない夏芽なら知ってることだと思ってたのに」
「そんなの知らなかったよ~」
「じゃあ、放課後一緒に行く?」
「わ~い、あっ!」
「どうしたの?」
「あ~、今日そういえば放課後に集まりあるんだった」
「そっか~、それは残念だね」
私は結局、四葉とワッフル屋さんに行くことができなかった。放課後、もうすぐ体育祭があるということでクラス委員も企画を立てることに参加しなければならなかった。
話し合いが一通り終わって、教室に戻ると、いつの日か見たオレンジ色の空が今日もこの街を包んでいた。放課後一人で教室にいると小学生の時を思い出す。本に依存してばかりのあの頃を。きっとそれは今も変わらない。だけど今の私は確かに現実を楽しんでいる。友だちと話したり、気になる相手がいたり。オレンジジュースみたいだなと、あの時と同じ想像をしていた。
『ぐ~』
オレンジジュースのことを考えていたらお腹が空いてしまった。きっと話し合いで疲れたというのもあると思う。よし、あそこ行こう。
私は素早く帰り支度を済ませると、走るように教室を去った。
すごっ、長蛇の列だ。さすがはオープン当日。ワッフル屋さんは大繁盛していた。
この列を見る限り、1時間は待たされそうだった。家に帰って夕飯を食べた方が早いんじゃないかと思った。でもせっかくここまで来たから、ワッフルを味わってから帰りたい。そう思っていた時、見覚えのある人物が私の横を通り過ぎた。
「お兄ちゃん、この生クリームワッフル美味しいよ」
「ほんと? それはよかった」
彼が妹を連れてこのお店にやって来ていたのだった。目を凝らすと彼は黄色っぽい物を挟んだワッフルを持っていたからカスタード味のワッフルを恐らく頼んだのだろう。
それにしても妹がいたとは。
「お兄ちゃんのもほしいよ! 香麦のと交換しよう」
「いいよ」
優しいお兄ちゃんだなと思った。また1つ彼の知らない一面を知れてよかった。2人の姿が見えなくなるまで私は彼らを見つめていた。
「はぁ~、ワッフル美味しかった!」
「夕飯食べれる?」
夕飯の支度をしていたお父さんがそう尋ねてきた。皺は増えたものの、お父さんの年齢を考えると若々しい容姿だなと娘ながらに思う。
「もちろん」
「じゃあ、夕飯の用意するからちょっと待っててね」
「うん」
口の中で抹茶の風味が広がっている。悩んだ末に選んだものだった。抹茶は思ったより苦くて甘いのが好きな私にはあまり合わなかった。
ピコン。
いつものように康成くんからのメッセージが送られていた。だけどそこには、衝撃的な文面が綴られていた。
『僕は今日オープンしたワッフル屋さんに妹と行きました。僕は最初カスタード味のワッフルを頼んだのですが、妹に交換しようと提案されて、生クリーム味のワッフルも食べました。僕的には生クリーム味のワッフルの方が美味しかったので、次行ったら生クリーム味のワッフルを頼もうと思います』
真っ先に浮かんだ彼の姿。遠目で私は、彼がカスタード味のワッフルを持っていたのを確認した。そして彼の妹の生クリーム味のワッフルと交換して食べていた。あの彼の行動とこのメールの文面は完全に一致していた。
もしかしたらこの世界のどこかで他にリニューアルオープンしたワッフル屋さんがあるかもしれない。そこで兄妹が偶然にもカスタード味と生クリーム味のワッフルをそれぞれ頼んでお互いにシェアしていたのかもしれない。だけど私にはどう読んでもその文面から彼のことしか頭に浮かばなかった。
これは確信だった。川端二葉が康成くんだという確信。
「えっ、そうなの!」
「うん、って知らなかったんだ。甘いものに目がない夏芽なら知ってることだと思ってたのに」
「そんなの知らなかったよ~」
「じゃあ、放課後一緒に行く?」
「わ~い、あっ!」
「どうしたの?」
「あ~、今日そういえば放課後に集まりあるんだった」
「そっか~、それは残念だね」
私は結局、四葉とワッフル屋さんに行くことができなかった。放課後、もうすぐ体育祭があるということでクラス委員も企画を立てることに参加しなければならなかった。
話し合いが一通り終わって、教室に戻ると、いつの日か見たオレンジ色の空が今日もこの街を包んでいた。放課後一人で教室にいると小学生の時を思い出す。本に依存してばかりのあの頃を。きっとそれは今も変わらない。だけど今の私は確かに現実を楽しんでいる。友だちと話したり、気になる相手がいたり。オレンジジュースみたいだなと、あの時と同じ想像をしていた。
『ぐ~』
オレンジジュースのことを考えていたらお腹が空いてしまった。きっと話し合いで疲れたというのもあると思う。よし、あそこ行こう。
私は素早く帰り支度を済ませると、走るように教室を去った。
すごっ、長蛇の列だ。さすがはオープン当日。ワッフル屋さんは大繁盛していた。
この列を見る限り、1時間は待たされそうだった。家に帰って夕飯を食べた方が早いんじゃないかと思った。でもせっかくここまで来たから、ワッフルを味わってから帰りたい。そう思っていた時、見覚えのある人物が私の横を通り過ぎた。
「お兄ちゃん、この生クリームワッフル美味しいよ」
「ほんと? それはよかった」
彼が妹を連れてこのお店にやって来ていたのだった。目を凝らすと彼は黄色っぽい物を挟んだワッフルを持っていたからカスタード味のワッフルを恐らく頼んだのだろう。
それにしても妹がいたとは。
「お兄ちゃんのもほしいよ! 香麦のと交換しよう」
「いいよ」
優しいお兄ちゃんだなと思った。また1つ彼の知らない一面を知れてよかった。2人の姿が見えなくなるまで私は彼らを見つめていた。
「はぁ~、ワッフル美味しかった!」
「夕飯食べれる?」
夕飯の支度をしていたお父さんがそう尋ねてきた。皺は増えたものの、お父さんの年齢を考えると若々しい容姿だなと娘ながらに思う。
「もちろん」
「じゃあ、夕飯の用意するからちょっと待っててね」
「うん」
口の中で抹茶の風味が広がっている。悩んだ末に選んだものだった。抹茶は思ったより苦くて甘いのが好きな私にはあまり合わなかった。
ピコン。
いつものように康成くんからのメッセージが送られていた。だけどそこには、衝撃的な文面が綴られていた。
『僕は今日オープンしたワッフル屋さんに妹と行きました。僕は最初カスタード味のワッフルを頼んだのですが、妹に交換しようと提案されて、生クリーム味のワッフルも食べました。僕的には生クリーム味のワッフルの方が美味しかったので、次行ったら生クリーム味のワッフルを頼もうと思います』
真っ先に浮かんだ彼の姿。遠目で私は、彼がカスタード味のワッフルを持っていたのを確認した。そして彼の妹の生クリーム味のワッフルと交換して食べていた。あの彼の行動とこのメールの文面は完全に一致していた。
もしかしたらこの世界のどこかで他にリニューアルオープンしたワッフル屋さんがあるかもしれない。そこで兄妹が偶然にもカスタード味と生クリーム味のワッフルをそれぞれ頼んでお互いにシェアしていたのかもしれない。だけど私にはどう読んでもその文面から彼のことしか頭に浮かばなかった。
これは確信だった。川端二葉が康成くんだという確信。