私はその後も小説を書き続けた。『透明な恋』を完成させてから、書きたいことが見つかったのだ。何とか勉強と執筆を両立させている。お父さんは相変わらず、私を応援してくれている。
 このやり取りを通じて、彼が私と同い年の男の子であること、私と同じように本が大好きであることがわかった。正体を包み隠さずにメールを送る彼に尊敬した。だって私は正体を隠しているから。私は由紀夫を演じていた。きっとそれを続けていたからか、彼はメールで敬語を使うようになっていった。
 私は正体を隠すことに慣れていった。その影響だと思う。中学では暗い性格を隠せるようになった。
 そのおかげで私はまた友達関係を作ることができたんだ。暗い性格の自分を隠し通して、明るい私を演じてみせた。だけど、決してあの頃とは違う。悲しみを知らない自分とは。
 彼とのやり取りが進むにつれて、内容は小説以外にも広がった。勉強のこととか、趣味のこととか、友だちと話すような内容が多くなっていった。その中でも特に興味深かったのは、彼が秘密基地を見つけたという内容だった。そこで彼は本を読んでいるらしい。
 そしていつからか、彼がどんな人なのかを想像するようになった。どんな顔で、どんな声なのだろうと。私は恋愛小説を書いていたからそう思ってしまう理由がわかった。私は彼を好きになってしまった。中学でも私は男子から告白されることがあったが、いずれも私はときめかなかった。だから、こんな気持ちは本当に初めてだった。
 彼とやり取りを始めた5年後の今日、私は顔も声も本性も知らない彼に初恋をした。