その挑戦は3か月ほど続いた。お父さんからもらったスマホを駆使して、私は日々のすべてを創作に捧げた。おかげでテストの点数が下がってしまったけど、お父さんは私の創作を応援してくれたから小言は言われなかった。
 編集者のお父さんにアドバイスをもらいながら、無事修正も終わり、本当の完成を迎えたのは春分の日のことだった。やっと完成した。お母さんはこんなに大変なことを小学生の時からやっていたんだ。私はお母さんとしてではなく、小説家としても心の底から尊敬した。
 この小説サイトには誰でも物語を読んで書く機能が充実していた。私はこの作品を公開しようと思った。お母さんの物語を、そして私自身の感性で書いた物語を一人でも多くの人に読んでほしいと思ったのだ。そしてお父さんとの相談の結果、私は『由紀夫』という名前を継ぐことを決めた。だから私はこれから『由紀夫』という看板を背負っていくんだ。お母さんが築き上げた名誉を。
 緊張で震える手を、私はゆっくりとスマホ画面に近づけた。そして遂に『投稿』ボタンを押したのだった。

 そしてその日の夜、どのくらい自分の書いた作品が読まれたかを確認するため、私はその小説サイトを開いた。
 『10回』
 初めて投稿したから、それが多いのか少ないのかわからなかった。だけどその中の一人から一通のメールが届いていた。
 差出人は『康成(こうせい)』という者からだった。
 『小説、とっても面白かったです。僕が今まで読んできた作品で一番大好きです。実は今日スマホをもらったばかりで、ちゃんと文字が打てているか心配です。なのでこの小説サイトを開いたのも初めてです。新着で届いていたのが由紀夫さんのこの作品でした。初めて読んだ電子書籍が『透明な恋』で本当に良かったです』
 初めてもらった感想。心の中心から末端までが温かくなるようだった。こんな気持ちは生まれて初めてのことだった。自分の文章が認められた。それがたった一人の感想だったとしてもそう思えた。
 私は文章をもう一度読み返した。『スマホをもらったばかり』ということは、恐らくこの送り主はまだ子どもだと思った。自分と年の近い男の子。私は急いで返信した。
 それが彼との出会いだった。そして私たちはこの日からメールでのやり取りを始めたのだった。