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『Re-pair』
 8月15日の花火大会に合わせて開催される自転車レース。
 参加条件が特殊!SNS上で話題!
 条件① 自分で修理したスクラップ自転車のみ参加登録可能。
 条件② 参加者は2人1組で『恋人限定』
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「つまり、恋人ごっこしろってことですか?」
「そそ。ミッションクリアも条件だから。スタンプラリーね」

 つまり、ズタボロの自転車を修理した上で、街の名所や飲食店やらをデートしてスタンプラリーを完遂しないと、参加できないというわけだ。
 杏子さんは、この自転車レースにどうしても出場したいとのこと。

「きっと楽しいでしょうね。杏子さんとデートなんて」
「えっ──!?」

 杏子さんが口をあんぐりと開けて驚いている。

「だからこそ、僕は嫌です。ごめんなさい」
「え……あ……えぇ?いや、楽しいよ。嫌じゃないじゃん」
「僕には……杏子さんには関係ない。とにかく、断ります」

 楽しいに決まっている。杏子さんとひと時でも恋人気分を味わえたら……。
 だからこそ、僕には許されない。
 “あの子“にも訪れるはずだった。そのひと時を奪ってしまったのだから。

「意味わかんないし!もう登録したから。ツレてけ、ツレてけー!」
「勝手にやっただけでしょ。知りませんよ僕は」
「そんな肩肘張らなくていーよ。恋人ごっこだよ?遊び遊びぃー」
「──ッ!」

 遊び。
 僕はあなたのことをそんな風には──
 けれど、杏子さんはきっとたくさん経験しているんだろうな。そういう”遊び“を。

「恋人ごっこ……それじゃあ、ほんとに愛人じゃないか。バカにしないでください」

 違う。こんな”いじけた“ことを言いたいんじゃないのに。
 このままでは──
 
「ちょ、ちょっと。どうしちゃったの?今日の愛人さんおかしいよ」
「おかしいのは、杏子さんだろ。いつも、いつもッ──!」

 いま……僕はなんて……
 周囲の音が一斉に消えた。そんな気がする。

「……僕じゃなくていいでしょ。なんで僕なんだ」

 僕は杏子さんに背を向けた。もう顔は見れない。
 
「アイジンさんじゃなきゃ……ダメだよ。そう決めてた。私やっと──」

 僕は返事をせず。逃げるようにその場を後にした。

「アイジンさん!待って──あだっ!」

 杏子さんの悲鳴に驚き、振り返ると、彼女は転んでしまったようでその場にしゃがみこみ、膝を抑えていた。
 僕は一瞬、躊躇したが、すぐに杏子さんの元へ駆け寄った。
 そしてスクールバッグからハンカチとミネラルウォーターを取り出すと、水で濡らして軽くしぼり、杏子さんの膝に優しく当てがった。

「ありがと……」
「……もう会うのは、やめましょう」
「えっ?」
「杏子さんといると……楽しいから。だからもう……さようなら」

 僕は立ち上がり、走った。
 背後から杏子さんの声がするが、振り返ることはなかった。