何十周回っていることか。リビングをぐるぐると際限なく。
……落ち着かない。ソワソワしてしまって。
そりゃそうだろう。女の子とふたりきり、ひとつ屋根の下で眠るなんて……。
いや、ベッドはどうする?僕のベッドを杏子さんに……ダメだ。杏子さんが一晩眠ったベッドで翌日に僕がそこで眠る……犯罪じゃないか!じゃあ、父のベッド……それはもっと許せない!
あぁもう、どうすればいいんだッ──!
♩ー♪ー♪ー♩ー
インターホンが鳴った。
着替えやら何やら、買い出しに行っていた杏子さんが帰還したようだ。
*
「それじゃー、一等賞を願って……かんぱーい!」
「かんぺい……」
杏子さん買ってきたビール(アルコールフリー)で乾杯。
デリバリーで頼んだピザもテーブルに並び、ちょっとしたパーティーのようで賑やかな食卓となっている。
「愛人くん、なんかいつも以上にカタいなぁ〜?」
「そ、そんな、こつ……」
「……ふぅん」
杏子さんは席を立ったかと思うと、今度は僕の隣の椅子へ腰掛けた。
そして、僕の耳元で──
「いっしょに、お風呂……入ろっか」
──と、ささやいたのだ。
「─────ッ!!」
僕は声にならない声をあげると、耐えきれずその場から逃走した。
避難先は冷蔵庫の中だ。僕だけのパニックルーム。
「あっははは!もう、愛人くんてば、可愛いよねー」
「帰れ!帰れぇぇぇぇッ──!」
「帰んないし。もう親に泊まるって言ったもん。玲ちゃんのとこって嘘ついたけど」
「密告してやるぅぅぅッ──!」
「ごめんて、ごめんて。出ておいでよー。アゲてけ、アゲてけー♪」
「デテいけ、デテいけー!」
*
──夜は更けていった。
お互いの好きなクリエイターの動画を見たり、ふたりで同じゲームをダウンロードして遊んでみたり。
夏休みの宿題をやったり(杏子さんは僕のを写していた)
時計の針はちょうど12時だ。
杏子さんは今、お風呂に入っている(僕と一緒には入っていない)
杏子さんがお風呂から上がるまでの間に、僕はパーティーの後片付けだ。
と言っても、杏子さんも僕も散らかすタイプではないため、ゴミというゴミはほとんどなかった。
それゆえに、目についたのかもしれない。
「これって……」
テーブルに置かれていた、一錠の薬剤。
──睡眠薬
僕も知っている。その昔、服用していたことがあるからだ。
「はぁー、いい湯だったぁー。ありがとね、愛人くん」
「えっ、あ、あぁ……よかった」
杏子さんがお風呂からあがってきた。
「僕もお風呂いくよ」
「美少女のお出汁。でてまっせ?」
「……最低すぎる」
いつもこうして朗らかな杏子さん。
けれど、あの薬は……きっとそういうことなのだろう。