また修理箇所が増えた。
杏子さんは脱出できたが、ブンブン丸は壁に激突。結果、”後ろ向き“にしか進まなくなってしまったのだ。
いま、橋の下の秘密基地で緊急点検している。
「まさかブレーキが無いとはねぇ。トメてけ、トメてけー」
「僕はそう言ったけど?」
やれやれ。といったジェスチャーをとる杏子さん。
「この部分のパーツが欠損してるんだと思う。あとは……無事みたいだ」
「さすがブンブン丸じゃんね!」
「反省してないな……とにかく、パーツをもらいに行かないと」
「あぁ〜、じゃあついでにさ。スタンプラリーやってこうよ」
デートだね。と言って僕に笑顔を向ける杏子さん。
──慣れないな、これは。
またドキっとさせられてしまった。
スタンプラリーの制覇。これもレース出場のための必要な条件だ。
僕らは手間のかかりそうなポイントから先に潰したため、こうした隙間時間だけで遂行できるほどには余裕がある。
ただ……“恋人ごっこ”はこちらが本番だ。
各関門ではスタンプを押してもらうために、恋人同士で簡単なミッションを乗り越えなくてはならない。
ちなみに、メイド喫茶での“試練”はトラウマになった。生涯忘れることはないだろう……。
けれど、笑っている杏子さんと同じ時間を過ごすと、本当に恋人になった気分がして。これはこれで楽しい。
僕がそんな風に思える日が来るとは夢にも思わなかった。
それもあと、一週間でおしまい。
そういう約束だ。
*
*
*
「見て見て、愛人くん。大漁だよー!ツレてけ、ツレてけー♪」
「〜〜〜〜〜ッ」
「なんで顔隠してんの?」
恥ずかしかったからだ。今回は(も)ほんとに恥ずかしかったッ!
今回のスタンプ地点は釣り堀だった。
どうせ普通に釣りをすればいいんだろうとタカを括っていたが……甘かった。
彼氏は彼女を後ろから。あるいは、彼女が彼氏を後ろからハグしながら釣りをするという残酷な拷問が待っていたのである。
──僕にはとても、杏子さんをバックハグなどできるはずもなく。「私は経験済みだから!」と、あの合宿での出来事で免疫をつけた杏子さんに身を委ねた……というわけだ。
「ふふっ。やっぱり男の子だなーって思ったよ?」
「“反応”してた!?そんなわけないって!」
「え……あっ、いや……え、えっとね。背中が広いなーって思ったの。カワイイ顔してるくせにさ」
「〜〜〜〜〜ッ!」
僕はまた顔を両手で覆った。
「でも、お魚どうしようか。秘密基地で……ヤイてけ、ヤイてけー?」
「……キスか」
いい魚だ。ただ焼いたのではもったいない。
日が暮れてきたけれど、もし大丈夫なら──
「杏子さん、家に来ない?」