「はっしれー!ブンブン丸ぅー!トンでけ、トンでけー♪」
「杏子さん、ダメだって!まだブレーキついてない──」

 ──行ってしまった……。
 ブレーキ無しのブンブン丸に跨って、思い切りトバす杏子さんの背中が遠のいてゆく。
 どうやって止まるつもりだろうか……。

 花火大会まで残り1週間だ。
 約束通り、僕は杏子さんと一緒にブンブン丸の修理に勤しんでいる。
 この橋の下。僕らの秘密基地で。
 
 ……正しくは、僕が修理(リペア)し、杏子さんが破壊(デモリション)していると言うべきか。
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「杏子さん、工具は持ってないの?」
「え?素手でいーよ。ぬくもりが大事じゃんね!……あ、もげた」
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「杏子さん……何してんの……?」
「溶接。翼くっつけるんだー。トケてけ、トケてけー♪」
「なんか……めっちゃ溶けてるけど……」
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「アゲてけ、アゲてけー♪」
「何してんの?ねぇ、何してんの?」
「スイカ引き揚げてるの。川の中で冷やしてたんだー」
「へぇ、スイカ……ん!?」
「ついでに、ブンブン丸の心臓(モーター)も冷やしといたよー。暑いもんね!」
「モーター……み……水浸し……」
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 ──といった具合に、三歩進んで二歩下がる。を体現しているものの、修理は順調だと思う。
 レース本番までには問題なく間に合うだろう。

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 右ポケットにバイブレーションを感じ、携帯を見ると、杏子さんからの着信があった。
『ぴえん』と一言メッセージが……。
 ブンブン丸は無事だろうか。僕は苦笑いを浮かべ、杏子さんの元へと走った。